Girl/ガール

Girl/ガール：バレリーナを夢見るトランスジェンダー少女の葛藤と賛否両論を呼んだ表現

2018年公開のベルギー映画『Girl/ガール』は、トランスジェンダーの少女ララがプロのバレリーナを目指す過程を描いた感動作です。ルーカス・ドン監督の長編デビュー作であり、第71回カンヌ国際映画祭ではカメラ・ドールとクィア・パルムを受賞するなど高い評価を獲得しました。しかし同時に、トランスジェンダーの身体表現や自傷行為の描写をめぐり、激しい議論を巻き起こした作品でもあります。

ストーリー：夢と現実の狭間で揺れる少女

15歳のララは、バレエの道を極めたいとフランス語圏からフラマン語圏の町へ引っ越し、厳しいダンス学校に通い始めます。ホルモン補充療法を受けているものの、思うように体が変化せず、学校ではクラスメートからの差別や、テーピングによる体の炎症に苦しみます。そして、耐えかねたララは自らの手でペニスを切り落とすという衝撃的な行動に出ます。映画は、街を歩くララの姿で幕を閉じます。この結末は、ララの苦悩と、未来への希望を象徴的に表現していると言えるでしょう。

キャストと制作：シスジェンダー俳優の抜擢と倫理的な議論

ララ役には、オーディションで選ばれたシスジェンダー男性のヴィクトール・ポルスターが抜擢されました。このキャスティングは、映画製作の大きな論点の一つとなりました。映画は、トランス女性ダンサー、ノラ・モンスクールの経験を元に創作されました。モンスクールは当初、ドキュメンタリー制作をオファーされましたが、劇映画として制作されることになったのです。彼女は製作過程にも関与しましたが、脚本クレジットには記載されていません。

ポルスターは、役柄のために発声やバレエのトレーニングを受け、ヌードシーンにも挑みました。撮影には、両親の承諾を得て、当時の年齢である14歳でのヌードシーンが含まれています。しかし、顔と下半身が同時に映らないよう配慮がされていました。

受賞と評価：高い評価と激しい批判

『Girl/ガール』はカンヌ国際映画祭での受賞をはじめ、多くの映画賞にノミネートされ、いくつかの賞を受賞しました。批評家からは、ララの苦悩を繊細に描いた作品として高い評価を得ました。しかし、トランスジェンダーやクィアコミュニティからは、性器への執着や自傷行為の描写、トランス女性への理解不足などを理由に激しい批判が巻き起こりました。

批判：トランスジェンダーコミュニティからの声

批判の中心は、映画がララの身体、特に性器に過度に焦点を当てているという点です。トランスジェンダーの批評家たちは、映画がトランス女性の身体を「トラウマの場」として利用し、シスジェンダーの視点からトランス女性の苦悩を搾取しているとしています。また、ホルモン補充療法の描写の不正確さも指摘され、トランス女性への誤った理解を助長する可能性も懸念されています。

さらに、シスジェンダー男性俳優によるララ役の演技についても、疑問の声が上がりました。トランス女性の経験を真に理解した上で演じることができるのか、という点です。

製作陣とモンスクールの反論

監督のドンは、映画はバレエ界におけるトランス女性の葛藤を描いたものであり、誰からも好かれる作品ではないことを認めています。モンスクール自身も、映画は自身の経験に基づいたものであり、批判されているシーンも自身の葛藤を反映したものだと主張しました。また、自傷行為の描写は、自殺念慮をメタファーとして表現したものであり、決して自傷行為を肯定するものではないと説明しています。

結論：複雑な視点を促す作品

『Girl/ガール』は、高い評価と激しい批判が入り混じった複雑な歴史を持つ作品です。映画は、トランスジェンダーの少女の苦悩を繊細に描きながらも、その表現方法をめぐって多くの論争を引き起こしました。この映画は、私たちにトランスジェンダーの人々への理解を深め、多様な視点を持つことの重要性を改めて問いかける作品と言えるでしょう。その複雑な要素ゆえに、視聴者一人ひとりが異なる解釈を持ち、議論を深めるきっかけとなるでしょう。

もう一度検索