Gsタンパク質αサブユニット

Gsタンパク質αサブユニット (Gαs, Gsα)

Gsタンパク質αサブユニット、通称GsαやGαsは、細胞が外部からの信号を受け取り、内部に伝えるための重要な分子です。特に、ヘテロ三量体Gタンパク質と呼ばれる大きなタンパク質複合体の一種であるGsの主要な構成要素として機能します。Gsαは、グアニンヌクレオチド（GDPやGTP）と結合してその活性状態を変化させるGTPアーゼという性質を持っており、この機能を利用して細胞内のシグナル伝達を調節しています。

分類と構造

ヘテロ三量体Gタンパク質のαサブユニットは、その構造や機能に基づいて大きく四つのファミリーに分類されます。Gsαはこの中のGαsファミリーに属しており、このファミリーはGsαとGolfαの二つのメンバーで構成されます。Golfαは主に嗅覚系（匂いを感知するシステム）で重要な役割を果たしています。ヒトの場合、Gsαをコードする遺伝子はGNAS遺伝子座に位置し、GolfαはGNAL遺伝子によってコードされます。このように、Gαsファミリーのメンバーはそれぞれ特定の組織や機能において重要な役割を担っています。

ヘテロ三量体Gタンパク質は、Gαサブユニット（Gsαなど）、Gβサブユニット、そしてGγサブユニットの三つが結合して複合体を形成しています。通常、細胞が外部刺激を受けていない非活性状態では、GαサブユニットはGDPと結合し、GβサブユニットおよびGγサブユニット（この二つは常に複合体を形成しています）と共に一つの大きな三量体として存在しています。

機能メカニズム：GPCRを介したシグナル伝達

Gsαが関わる細胞シグナル伝達は、主にGタンパク質共役受容体（GPCR）と呼ばれる細胞膜上の受容体を介して開始されます。この情報伝達システムは、「受容体」、「トランスデューサー」、「エフェクター」という三段階の要素から成り立っており、ヘテロ三量体Gタンパク質はトランスデューサーの役割を担います。

細胞外から信号となる分子（例えば、ホルモンや神経伝達物質など）がGPCRに結合すると、その受容体の構造が変化し、活性化された状態になります。この活性化されたGPCRは、グアニンヌクレオチド交換因子（GEF）として働き、近くにあるヘテロ三量体Gタンパク質に作用します。具体的には、Gαサブユニットに結合していたGDPを放出し、代わりに細胞内に豊富にあるGTPを結合させる反応を促進します。

GTPと結合したGαサブユニットは活性型となり、それまで結合していたGβγ複合体から解離します。このようにして単離された活性型Gsα（GTP結合型Gsα）は、細胞内の標的分子であるアデニル酸シクラーゼという酵素に結合し、これを活性化します。活性化されたアデニル酸シクラーゼは、アデノシン三リン酸（ATP）から環状アデノシン一リン酸（cAMP）というセカンドメッセンジャーを大量に作り出します。細胞内のcAMP濃度が上昇すると、これが引き金となり、cAMP依存性プロテインキナーゼ（PKA）と呼ばれる重要な酵素が活性化されます。PKAは、さらに多くの標的タンパク質をリン酸化することで、細胞内の様々な反応（遺伝子発現の変化、代謝調節、細胞増殖など）を引き起こします。

このシステムでは、シグナル増幅が起こります。一つの活性化されたGPCRは、複数のヘテロ三量体Gタンパク質Gsを連続的に活性化することができます。そして、活性化されたGsαはそれぞれ独立してアデニル酸シクラーゼを活性化するため、わずかな細胞外信号でも細胞内に大量のcAMPが産生され、その結果、PKAを介した下流の反応が大きく増幅されるのです。GTP結合型Gsαは、GTP加水分解活性（GTPをGDPとリン酸に分解する能力）も持っており、この活性によって自身に結合したGTPをGDPに戻すことで不活性状態に戻り、Gβγと再び複合体を形成して次の信号に備えます。

Gsと共役する主なGタンパク質共役受容体

GsファミリーのGタンパク質は、以下のような多様な生理機能に関わる様々なGPCRと共役することが知られています。

セロトニン受容体 (5-HT4, 5-HT7)
ACTH受容体 (MC2R)
アデノシン受容体 (A2A, A2B)
バソプレシン受容体 (V2)
アドレナリン受容体 (β1, β2, β3)
カルシトニン受容体
カルシトニン遺伝子関連ペプチド受容体
カンナビノイド受容体 (CB2)
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン受容体
ドーパミン受容体 (D1様ファミリー - D1とD5。特に線条体ではGolfを介することが多い)
卵胞刺激ホルモン受容体
GIP受容体
グルカゴン受容体
成長ホルモン放出ホルモン受容体
ヒスタミン受容体 (H2)
黄体形成ホルモン/絨毛性ゴナドトロピン受容体
メラノコルチン受容体 (MC1R, MC2R, MC3R, MC4R, MC5R)
嗅覚受容体 (嗅神経ではGolfを介する)
副甲状腺ホルモン受容体1
プロスタグランジン受容体 (D2, I2)
セクレチン受容体
甲状腺刺激ホルモン受容体
微量アミン関連受容体 (TAAR1)

これらの受容体を介して、Gsαは心拍数の増加、気管支の拡張、血糖値の上昇、脂肪分解の促進、嗅覚、ホルモン分泌の調節など、生体の恒常性維持や応答に不可欠な多くの生理応答を媒介しています。

Gsタンパク質αサブユニット