HD 164922

HD 164922

ヘルクレス座に位置するHD 164922は、地球からおよそ72光年の彼方にあるG型主系列星です。等級は7等と暗く、肉眼でその姿を捉えることはできません。観測には双眼鏡や天体望遠鏡が必須となります。

この恒星の特筆すべき点は、その驚異的な年齢です。およそ134億歳と推定されており、これは宇宙の年齢に迫るほど古い天体の一つです。太陽の年齢が約46億年であることを考えると、いかにHD 164922が悠久の時を刻んできたかが分かります。現在、主系列星としての生涯の終わりに近づいており、遠くない将来、赤色巨星へと進化すると予測されています。HD 164922は、単に恒星として古いだけでなく、複数の惑星を持つ天体系としても、天の川銀河内で確認されている中でも極めて古い部類に属します。

命名について

「HD 164922」という名称は、ヘンリー・ドレイパー星表において164,922番目に記載されたことに由来します。その周りを公転する惑星たちには、発見された順序に従ってアルファベットの小文字が付与されます。最初に確認された惑星は「b」、次に見つかった惑星は「c」、そしてその後に「d」、「e」と名付けられています。この命名規則は、特定の恒星の周りを巡る最初の惑星に「b」を割り当て、以降発見順に「c」「d」…と続くという国際的な慣習に基づいています。

恒星の特性

HD 164922はG型主系列星であり、私たちの太陽と同じスペクトル分類に属しています。しかし、その物理的な特徴は太陽とはいくつかの点で異なります。質量は約太陽質量の87%、半径は約太陽半径の99%と、太陽よりやや小ぶりです。表面温度は5293ケルビンで、太陽の5778ケルビンより低温です。

最も興味深い特徴の一つは、その化学組成です。金属量、特に鉄の水素に対する比率（[Fe/H]）は0.16と測定されており、これは太陽の約144%に相当します。およそ134億年という非常に古い恒星でありながら、これほど金属が豊富であることは珍しく、恒星の形成初期における環境や、その後の銀河内の物質循環の歴史について示唆を与えます。光度は太陽光度の約70%です。

惑星系

HD 164922は、複数の太陽系外惑星を持つ多惑星系です。

HD 164922 b: 2006年7月15日に、この恒星の周りを公転する最初の惑星、HD 164922 bが発見されたことが発表されました。この惑星は公転周期が比較的長く、質量は土星に匹敵すると推定されています。恒星から約2.11天文単位離れた軌道を、わずか0.05という低い軌道離心率で巡っています。
HD 164922 c: 最初の惑星の発見から約10年後の2016年、二番目の惑星HD 164922 cの存在が確認されました。この惑星はHD 164922 bよりも恒星に近い軌道を公転しており、最小質量は地球の約13倍と推定されています。これは、太陽系における海王星や天王星のような氷惑星に近いタイプである可能性を示唆しています。
HD 164922 d: 2020年には、三番目の惑星としてHD 164922 dが発見されました。この惑星は、恒星のすぐ近くを公転する高温のスーパー・アース（地球より大きく海王星より小さい岩石惑星）であると考えられています。
HD 164922 e: そして2021年、四番目の惑星HD 164922 eが発見されました。この惑星も海王星に近いサイズを持つとされています。

このように、HD 164922の周りには、質量の大きなガス惑星から海王星サイズの惑星、そしてスーパー・アースまで、多様な惑星が存在しています。134億年という長い歴史を持つこの恒星の周りで、どのようにしてこのような多様な惑星系が形成され、維持されてきたのかは、今後の研究によって解き明かされるでしょう。

この古く、金属が豊富で、さらに複数の惑星を従えるHD 164922系は、初期宇宙における惑星形成のプロセスや、銀河系の進化、そして生命が誕生しうる環境の可能性を探る上で、極めて重要な研究対象となっています。

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