HD-PLC

HD-PLC：電力線などを用いた高速データ通信技術

HD-PLC（High Definition Power Line Communication）は、既存の電力線、電話線、同軸ケーブルといったメタル線を活用した高速データ通信技術です。2MHz～28MHzの高周波信号をこれらの線路に重畳することで、通信ネットワークを構築します。IEEE 1901規格に準拠しており、高い信頼性と効率性を特徴としています。

HD-PLCの技術構成

HD-PLCは、大きく分けて物理層（PHY）、メディアアクセス制御（MAC）、そしてマルチホップ技術の3つの要素から構成されています。

1. 物理層（PHY）

物理層では、Wavelet OFDM（直交周波数分割多重）技術が用いられています。Guard Interval（ガードインターバル）を設けないことで、高効率なデータ伝送を実現しています。さらに、サブキャリア毎に適応変調を行うことで、伝送路の状態に合わせて最適な変調方式を選択し、効率的な通信を可能にしています。2～28MHzの周波数帯域を使用し、最大240Mbps（第3世代）～1Gbps（第4世代）の物理速度を実現しています。

強力な誤り訂正符号とダイバーシティモードによって、電力線のノイズが多い環境下でも安定した通信を確保しています。また、Flexible notch機能により、特定の周波数帯域を容易に遮断することができるため、他の機器との干渉を最小限に抑えることができます。

2. メディアアクセス制御（MAC）

MAC層では、親機がビーコンフレームと呼ばれる制御フレームをネットワーク内の全端末に定期的に送信することで、ネットワーク全体の制御とQoS（Quality of Service）の管理を行います。

基本的なメディアアクセス方式として、CSMA-CA（Carrier Sense Multiple Access – Collision Avoid）と、DVTP（Dynamic Virtual Token Passing）の2種類が搭載されています。CSMA-CAは、キャリアセンスと衝突回避を用いた方式で、DVTPは親機が端末に送信権を動的に割り当てる方式です。これにより、効率的で安定したデータ伝送を実現しています。

3. マルチホップ技術

ITU-T G.9905規格に基づいたCMSR（Centralized Metric based source Routing）プロトコルを採用しています。複数の端末を中継点として利用することで、通信距離を数キロメートルにまで延長できます。伝送路の状態に応じて通信ルートを自動的に探索・変更する機能も備えているため、大規模なシステム構築や、端末故障時の耐障害性にも優れています。

4. 第4世代HD-PLC

IoT時代における様々な機器の接続需要の高まりを受け、第4世代HD-PLCでは、通信距離と速度の両面で改良が加えられました。

使用周波数帯域を調整することで、通信距離を従来の2倍に延長するか、逆に速度を最大1Gbpsに向上させることができます。高速化された技術は、国内では主に専用線用途で利用されています。

HD-PLCのメリットとデメリット

メリット:

電力線だけでなく、同軸ケーブルや制御線など、様々な配線を通信回線として利用可能
高速通信が可能（最大240Mbps～1Gbps）

デメリット:

* 電力線を通信回線として利用する場合、漏洩電磁波が短波帯無線通信にノイズとなる可能性がある（アマチュア無線や業務無線への影響）

HD-PLC関連ベンダー

HD-PLC技術の開発・提供を行う主なベンダーには、メガチップス、ソシオネクスト、ミネベアミツミ、アイ・オー・データ機器、パナソニックなどがあります。これらの企業は、通信モジュールや通信モデム内蔵製品など、様々なHD-PLC関連製品を提供しています。

まとめ

HD-PLCは、既存インフラを活用した高効率、高速データ通信技術として、スマートメーター、BEMS（Building Energy Management System）、FEMS（Factory Energy Management System）など、幅広い分野での活用が期待されています。その高い信頼性と柔軟性から、今後ますます重要性が増していく技術と言えるでしょう。

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