HG-3 (ロケットエンジン)

HG-3 ロケットエンジン

HG-3エンジンは、アメリカ合衆国がアポロ計画を成功させた後に構想された、次世代のサターンロケットに搭載するために設計が進められた、高性能な液体燃料ロケットエンジンです。このエンジンは、推進剤として極低温状態の液体水素と液体酸素を利用することを特徴としていました。

このエンジンの開発は、サターンロケットで実績のあるロケットダイン社によって担われました。HG-3は、既にアポロ計画のサターンV型ロケットなどで使用されていた同社のJ-2エンジンを基盤とし、その設計をさらに発展・改良する形で構想されました。J-2エンジンも液体水素と液体酸素を推進剤としていましたが、HG-3はそれを上回る性能を目指していました。

HG-3エンジンは、飛行中に単基あたり約1,400.7キロニュートン（およそ315,000ポンド力）という強力な推力を発生させる能力を持っていました。これにより、より大きなペイロードを宇宙空間へ輸送することが期待されました。また、エンジンの効率を示す比推力（Isp）においても優れた性能を発揮し、真空中では451秒、海面高度では280秒という高い数値を達成しました。特に宇宙空間での高い比推力は、燃料の消費を抑え、長いミッションやより遠方への探査を可能にする上で重要な要素です。

HG-3エンジンは、アポロ計画終了後に計画されていた複数のサターンロケットの改良型に採用される予定でした。具体的には、サターンMLV（Modified Launch Vehicle）、サターンIB-B、そしてサターンV/4-260といった改良型ロケットの、S-II-2段やS-IVB-2段といった上段用エンジンとして計画されていました。これらの計画は、アポロ計画で確立された技術をさらに発展させ、将来の宇宙輸送ニーズに対応することを目指していました。加えて、サターンINT-17という別の派生型ロケット向けには、地上での運用に特化した海面高度最適化型の「HG-3-SL」も設計されていました。

しかしながら、当時の政治的・財政的な状況の変化により、アポロ計画後に進められていた一連のサターンロケット改良・発展計画は相次いで中止されることとなりました。これに伴い、HG-3エンジンの開発もまた、計画段階で中断されることになりました。結果として、HG-3エンジンが実際に宇宙へ打ち上げられる機会は訪れませんでした。

直接的な開発は中止されたものの、HG-3エンジンの設計過程で得られた技術や知見は、その後のアメリカの宇宙開発において重要な遺産となりました。特に、後の主要な宇宙輸送システムであるスペースシャトルの主エンジンとして開発された「RS-25」（スペースシャトル主エンジン、SSMEとも呼ばれる）の設計の原型として、HG-3の技術が活用されたことは特筆すべき点です。HG-3の開発で培われた液体水素・液体酸素エンジンの高性能化に関する技術は、RS-25という世界最高峰のエンジンが誕生する上で貴重な基盤となりました。

このように、HG-3エンジンは、実現しなかった計画のために開発されながらも、高性能液体燃料ロケットエンジンの設計技術を大きく進歩させ、その後のアメリカの宇宙開発、特にスペースシャトル計画へと技術的な橋渡しをした、歴史的に重要な存在と言えます。その開発中止は残念な出来事でしたが、そこで培われた技術は形を変えて将来の成功に貢献しました。

もう一度検索