IBM JX

IBM JX：日本IBMの挑戦と挫折

1984年、日本IBMは家庭用パソコン市場に参入しました。その名も「IBM JX」。しかし、この挑戦は商業的な成功とは程遠く、日本のパソコン史における特異な存在として記憶されています。本稿では、IBM JXの開発背景、特徴、そして失敗の要因を詳しく探ります。

日本市場への参入と独自の戦略

当時、日本の家庭用パソコン市場は8ビット機が主流でした。PC-8800シリーズやPC-9800シリーズが人気を博し、市場を席巻していました。そんな中、日本IBMは16ビット機であるIBM JXを投入したのです。これは、世界的に成功を収めていたIBM PCシリーズとは異なる、日本市場に特化した戦略でした。企業向けには日本独自仕様のマルチステーション5550を販売していましたが、家庭向け市場への進出はIBM JXが初めてでした。

IBM JXは、アメリカで発売されたIBM PCjrをベースに開発されました。しかし、単なる移植ではなく、日本語表示機能などが追加され、日本市場に合わせた改良が施されていました。キャッチコピーは「プライベート16ビット」で、高性能な16ビットマシンを家庭でも使えるというコンセプトを打ち出しました。

ハードウェアとソフトウェアの特徴

IBM JXは、Intel 8088プロセッサを搭載していました。初期モデル(JX1～JX4)は4.77MHz、改良版のJX5は7.2MHzでした。ストレージには当時珍しかった3.5インチ2DD 720KBフロッピディスクドライブを採用し、PCjrと同様に前面にROMカートリッジスロットを備えていました。このスロットは、動作モードの切り替えや、ソフトウェアの配布にも利用されていました。

オペレーティングシステムは、日本語DOS K2.0と英語版のPC DOS 2.0の両方が搭載され、MS-DOSとの互換性も確保していました。また、赤外線ワイヤレスキーボード（JX1～JX4）や、拡張ユニット、ハードディスク拡張ユニットなどの周辺機器も提供されました。拡張ユニットはRAMの増設や追加のフロッピディスクドライブの搭載を可能にしていました。

動作モード

IBM JXは、基本モード、英文モード、拡張表示モードの3つのモードを備えていました。

基本モード: 標準的な日本語モード。日本語DOSを使用可能。
英文モード: PCjr互換モード。英語版PC DOSを使用可能。PCjr用ROMカートリッジも使用可能。
拡張表示モード: 高解像度(720x512)表示モード。JX3、JX4ではカートリッジ、JX5ではスイッチで切り替え。

失敗の要因

しかし、IBM JXは商業的には失敗に終わりました。その要因として、いくつかの点が指摘されています。

中途半端なスペック: 16ビット機が主流になりつつある中で、Intel 8088プロセッサは低スペックと見なされ、マニア層からの支持を得られませんでした。
ソフトウェアの不足: JX対応ソフトウェアの数が少なく、ユーザーの選択肢が限られていました。また、日本IBMのソフトメーカーへの協力体制も不十分でした。
高い価格: 高価格帯であったことも、普及の妨げとなったと考えられます。
* マーケティングの失敗: 森進一を起用した大規模な広告宣伝が行われましたが、製品のスペックや市場ニーズとのずれが大きく、効果を上げることができませんでした。

後世への影響

IBM JXは商業的には失敗に終わりましたが、日本のパソコン業界に少なからず影響を与えました。その経験は、後のDOS/V|DOS_V機の開発にも活かされたと言われています。また、IBM JXで使用された型番は、後継機であるPS/55Zにも引き継がれています。

まとめ

IBM JXは、日本IBMの家庭用パソコン市場への挑戦と、その挫折を示す象徴的な製品です。スペック、ソフトウェア、マーケティングなど、様々な要因が重なり、商業的な成功には至りませんでした。しかし、その失敗から得られた教訓は、後の日本におけるパソコン市場の発展に貢献したと言えるでしょう。

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