IBM Workplace OS

IBM Workplace OS：幻に終わった野心的なオペレーティングシステム

IBM Workplace OSは、1990年代にIBMが開発を計画したマイクロカーネルベースのオペレーティングシステムです。このOSは、ソフトウェアの可搬性を高め、保守費用を削減することを目的とし、当時のIBMの（メインフレームを除く）全てのOSの基盤となることを目指していました。しかし、その野心的な目標は、技術的な困難やコスト超過により、最終的には実現することはありませんでした。

構想と開発

Workplace OSの構想は、1991年に始まりました。IBMは、カーネギーメロン大学で開発されたMach 3.0マイクロカーネルをベースとし、これをOSFの研究所で大幅に修正したものを採用しました。このマイクロカーネル上で、DOS、OS/2、Microsoft Windows、OS/400、AIXといった複数のオペレーティングシステム（「パーソナリティ」と呼ばれた）を同時に稼働させることを計画しました。

さらに、Workplace OSは、PowerPC、ARM、x86といった複数のプロセッサに対応し、PDAからワークステーション、大型サーバまでをカバーすることを目指していました。IBMは、まずx86ベースの既存システム（DOSとOS/2）をPowerPCベースのシステムに移行することから着手しました。1992年には、タリジェントもIBMのマイクロカーネルに対応し、Workplace OSのパーソナリティとして、DOSやOS/2などと同時に稼働する予定となりました。

初期の内部開発バージョンでは、x86ベースのハードウェアでBSD UNIXとDOSのパーソナリティが稼働しました。しかし、複数のパーソナリティをサポートするカーネルの実装は非常に困難を極めました。異なるパーソナリティの開発チーム間のコミュニケーション不足も問題を深刻化させました。その結果、開発費用は200万ドルにも膨れ上がり、PowerPCの高速版においてもパフォーマンスは期待を大きく下回るものでした。

プロジェクトの終焉

1995年10月、PowerPCカーネル（のみ）が、限定的ながらも商用出荷されました。しかし、これは「IBM Workplace OS」として発表・出荷されたものではありませんでした。このカーネルは、OS/2 for PowerPCや、PowerPC搭載ThinkPad用に準備されたAIXなどに内部使用されたものと考えられています。

1996年には、x86とARMをサポートする第2バージョンが作成されましたが、パフォーマンスの悪さ、PRePとの適合性の低さ、PowerPC 620の品質問題、コスト超過、そしてAIXやWindows、OS/400などのパーソナリティの未対応といった多くの問題が発生しました。これらの問題を解決することができず、プロジェクトは中止されることになりました。この中止に伴い、IBMはWorkplace OSプロジェクトと、ローエンドPowerPCを担当していたパワーパーソナル事業部(PPD)の両方を終了しました。

プロジェクト中止後、IBMは新しいオペレーティングシステムの開発を停止し、ローエンドのx86市場ではWindowsとLinuxに重点を置くようになりました。

補足

IBM Workplace OSは、同じIBMの製品であるWorkplace Shell（OS/2のGUI環境）やIBM Workplace（Javaベースのコラボレーションソフトウェア）とは、製品としては全くの別物です。

関連情報

• - オペレーティングシステム
• - マイクロカーネル
• - Mach
• - OPENSTEP
• - OS/2
• - AIX
• - タリジェント

外部リンク

• - 元麻布春男の週刊PCホットライン OS/2の歩みを振り返る (中盤に[IBM]] Workplace OSの説明があります。ただし、記事には正確でない点も見られます)
• - [The History of OS/2 の OS/2 for PowerPC に関する部分の日本語訳 (中盤にIBM Workplace OSの説明があります)

IBM Workplace OSは、技術的な野心と壮大なビジョンを持っていましたが、その複雑さと技術的な困難さから、最終的には日の目を見ることなく終わってしまったプロジェクトです。しかし、このプロジェクトで得られた経験は、その後のOS開発に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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