ICAM

統合化されたコンピュータ支援製造（ICAM）

概要
統合化されたコンピュータ支援製造、通称ICAM（Integrated Computer-aided Manufacturing）は、1970年代後半にアメリカ空軍によって推進された画期的なプログラムです。製造プロセスの統合を実現するためのツール、技法、そしてプロセス群の開発を目的とし、その後の多くの企業におけるコンピュータ統合製造（CIM）やコンピュータ支援製造（CAM）の取り組みに大きな影響を与えました。

設立背景
ICAMプログラムは、1976年、オハイオ州ライト・パターソン空軍基地における空軍の技術近代化戦略の一環として設立、管理されました。このイニシアティブは、同基地の米空軍物資研究所にて、デニス・ウィスノスキー、ダン・L.・シュンクらを中心とするチームによって開始されました。当時の製造現場は、個別の工程が分断され、全体としての効率や柔軟性に課題を抱えていました。

製造統合への思想
著名な製造技術者であるジョセフ・ハリントンは、製造全体を単一の「モノリシックな機能」と捉え、ICAM設計でウィスノスキーやシュンクと協力しました。ICAMは、このCIMを実現するためには、従来のやり方とは異なる新しい統合アプローチが必要であることを先駆的に示しました。ウィスノスキーとシュンクは、製造システム内の様々な要素が連携して機能する必要性を示す「ホイール」モデルを考案し、統合に必要な相互依存性の理解を試みました。彼らの研究は、製造の焦点を個別工程の連続から、複数のプロセスが並行して行われる方向へと転換させる上で重要な一歩でした。

大規模な投資とその影響
米空軍はICAMプログラムに1億ドル以上を投じ、製造統合支援手法を開発し、民間のCIMプロジェクトに多大な影響を与えました。ICAMは、統合努力の中核として「データ」が果たす役割を強く認識し、部門や機能を横断して共通に利用・共有されるべきだと提唱しました。この考え方は当時としては極めて先進的で、多くの大手企業がデータアーキテクチャの課題に本格的に取り組むのは1990年代に入ってからでした。

IDEF標準の誕生とデータモデルの重要性
ICAMプログラムはまた、製造施設内の活動を分析し、文書化する方法のニーズを認識しました。このニーズに応えるため誕生したのが、管理や事業改善のためのモデリング・分析標準IDEF（Integrated DEFnition）です。IDEFはICAMプログラム由来の定義手法を意味し、公式な機能モデリング（IDEF0）や情報モデリング（IDEF1）などの仕様策定を主導しました。ICAMの重要な洞察は、データから真の意味を得るためには、それが記述する現実世界の「モデル」（データの静的な関連を示す情報モデルと、利用・変更ルールを示す機能モデル）を定義し合意する必要がある点でした。これらのモデルの重要性がICAMで早期に認識され、IDEF開発へ繋がりました。後のPDES（プロダクト・データ交換仕様）やSTEP（製品モデルデータ交換標準）といったデータ交換標準の試みも、公式なデータモデルなしにデータ共有は不可能というICAMの考え方を継承し、製品の特徴、製造・組立プロセス、製品ライフサイクルに関する詳細な情報・機能モデルを整備し、広範な情報交換標準化を目指しました。

IDEF思想の継続研究
IDEFを用いた研究と応用は1990年代に入っても継続され、ジョージア工科大学の物品取扱研究センター（MHRC）やアーカンソー大学などが情報システム研究の分野で採用しました。彼らは物品の移動・取扱いや人工知能の応用に伴う情報フローに焦点を当て、MHRCは機械故障や原料不足といった計画外イベントへの対応モデルや、物品フロー・情報フロー統合のためのIDEF拡張に取り組みました。これらの継続的な研究努力は、任意のサイズのパッケージを自動的にパレット化するソフトウェア、トラックへの積込み・荷降ろしを自動化するシステム、あるいは光ファイバー製造における統合的な生産制御システムなど、具体的な技術的成果に繋がりました。

結び
統合化されたコンピュータ支援製造（ICAM）プログラムは短期間の集中的な取り組みでしたが、製造分野におけるコンピュータの活用とシステム統合に関するその洞察と開発は、後続の研究開発や標準化活動に計り知れない影響を与えました。特に、プロセスやデータのモデリングの重要性を早期に認識し、IDEFという具体的な手法を生み出した功績は大きく、その基本的な考え方は現代のデジタルマニュファクチャリングや産業オートメーションにおいても引き継がれています。ICAMは、製造をより効率的で柔軟なシステムへと変革するための、先駆的な一歩だったと言えるでしょう。

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