ISO 16949

ISO 16949とは

ISO 16949は、自動車産業向けの品質マネジメントシステム（QMS）に関する国際的な技術仕様です。この規格は、自動車メーカーとそのサプライヤーが、製品やサービスの品質を継続的に向上させるための枠組みを提供します。

概要

ISO 16949は、ISO 9001を基盤とし、自動車産業特有の要求事項を加えています。2013年時点の版はISO/TS 16949:2009で、「品質マネジメントシステム - 自動車製造や関連する交換部品に携わる組織にISO 9001:2008を適用する際の要求事項」と定義されています。TSは技術仕様を意味します。この規格は、顧客要求事項を満たすだけでなく、継続的な改善、不良品の防止、製品のばらつきの減少、サプライチェーンにおける無駄の排除を目的としています。ISO/TS 16949は、自動車業界で製品やサービスを提供する組織が、このような品質マネジメントシステムを運用することを支援します。

2016年の改正

ISO/TS 16949:2009は、2016年10月にIATF 16949:2016へと改正されました。

ISO/TS 16949制定までの歴史

ISO/TS 16949の制定前、自動車産業では各メーカーが独自の品質管理体制をサプライヤーに要求していました。これにより、サプライヤーは複数の規格に対応する必要があり、大きな負担が生じていました。

制定以前の状況

自動車の大量生産が始まった当初、部品は完成車メーカー自身が製造することが多く、例えばフォードは原料から完成車まで一貫して製造していました。しかし、現代では、多くの部品を外部サプライヤーが製造し、完成車メーカーが組み立てる形が主流となっています。そのため、部品の品質管理とサプライヤーの品質マネジメントシステムの管理が重要になりました。

各完成車メーカーは、サプライヤーに対して品質管理体制の監査を実施していました。例えば、フォードはQ101、ゼネラル・モーターズはSPEARといった規格を定め、サプライヤーに対する監査を行っていました。また、1980年代には、日本の自動車メーカーの品質の高さが注目され、アメリカのメーカーはペンタ・スター、Q1、ターゲット・フォー・エクセレンスといった賞を設け、サプライヤーの品質向上を促しました。

規格統一の必要性

しかし、各メーカーが独自の規格を設けることは、サプライヤーにとって大きな負担でした。似たような規格の拡散、異なる書類の要求、重複する監査、用語の不一致などが問題として挙げられます。この問題を解決するために、自動車業界全体で統一された品質マネジメント規格が求められました。

アメリカでは、ビックスリーが中心となり、QS-9000という統一規格を制定しました。これは、ISO 9000:1994を基に、各社の要求事項を網羅するように発展させたものです。また、AIAG（アメリカ自動車工業会）は、PPAP、SPC、MSA、FMEA、APQPというファイブコアツールと呼ばれる5冊の手引書を発行し、QS-9000の運用を支援しました。ドイツでは、VDA（ドイツ自動車工業会）がVDA6.1を制定し、自動車産業向けのチェックシートを提供しました。イタリアでは、ANFIAがAVSQを制定し、ISO 9001:1994を基にしたチェックリストを提供しました。フランスでは、PSAとルノーがEAQFを発行し、ISO 9001を自動車産業に適用するための指針を示しました。

ISO/TS 16949の誕生

国際的な企業買収や共同開発が進む中、各国独自の規格に対応する必要性が高まり、国際的な統一規格の必要性が認識されました。そこで、欧米の主要な自動車メーカーと業界団体がIATFを結成し、ISO/TS 16949を制定しました。これにより、各国独自の規格はISO/TS 16949に統合され、QS-9000は2006年12月15日以降、無効となりました。ISO/TS 16949は、2002年に第二版、2009年に第三版が発行されています。

ISO/TS 16949の特徴

ISO/TS 16949は、TQM（Total Quality Management）の考え方を基に、具体的な品質マネジメントシステムを導入するためのガイドラインとして、ISO 9001やQS-9000などを参考に作成されました。この規格は、顧客満足度と従業員満足度を重視しています。

顧客満足度については、顧客が製品やサービスに対してどのように感じているかを継続的に確認する方法を確立することを規定しています。また、製造工程のパフォーマンスを継続的に確認し、顧客の要求事項に合致していることを示すことが求められています。

従業員満足度については、QS-9000では言及されていませんでしたが、ISO/TS 16949では従業員の満足度を調査し、品質目標の達成、継続的な改善活動、新しいアイデアの導入を促進する仕組みを整備することを規定しています。

ISO/TS 16949の構成

ISO/TS 16949は、ISO 9001の本文と、約100項目の追加項目から構成されています。ISO 9001の要求事項はすべてISO/TS 16949に引用され、IATFが追加項目を加えています。例えば、ISO 9001の「6.4 労働環境」という項目に対して、IATFは「6.4.1 製品に対する要求事項に合致させる際の人の安全」と「6.4.2 清潔な施設」という項目を追加しています。

また、ISO/TS 16949は、規格本文だけでなく、顧客固有要求事項という完成車メーカーごとに作成する別冊と合わせて、基本的な要求事項全体を構成します。ファイブコアツールなどの関連文書を参照するように求めているのは、この顧客固有要求事項です。

ISO/TS 16949の内容

ISO/TS 16949はISO 9001を基盤としているため、基本的な内容はISO 9001と同様です。品質マネジメントの8つの原則は、ISO/TS 16949にも当てはまります。これらの原則は、以下の通りです。

1. 顧客重視
2. リーダーシップ
3. 人々の参画
4. プロセスアプローチ
5. マネジメントへのシステムアプローチ
6. 継続的改善
7. 意思決定への事実に基づくアプローチ
8. 供給者との互恵関係

章立てもISO 9001と全く同じで、以下の構成になっています。

0章 序文: 継続的な改善、不良品の予防、ばらつきの減少、無駄の削減を目指す規格であることを述べています。
1章 適用範囲: 製造工場だけでなく、サポート部門も対象であることを明確にしています。
2章 関連規格: ISO 9000が参照規格であることを示しています。
3章 用語と定義: ISO/TS 16949で使用される用語を定義しています。
4章 品質マネジメントシステム: システム全体に対する基本的な要求事項を規定しています。
5章 経営者の責任: 経営者が品質マネジメントシステムに深く関与することを求めています。
6章 資源の運用管理: ポジションに必要な能力を規定し、労働環境や設備についても規定しています。
7章 製品実現: 製品を製造する過程を企画、設計・開発、購買、製造、確認・測定に分けて規定しています。
8章 測定、分析、改善: 製品が要求項目に合致しているか、システムが適切であるか、効率を常に改善するための仕組みを規定しています。

ISO/TS 16949では、附則Aとして、コントロールプランの書式を規定しています。コントロールプランは、製造工程に沿って、どの工程で、どの項目を、どのように、どれくらいの頻度で確認するかをまとめた一覧表です。

主な認証機関

ISO/TS 16949の認証を行っている主な機関は以下の通りです。

デット・ノルスケ・ベリタス
テュフズード
テュフラインランド
テュフノルド
NSFインターナショナル
ビューローベリタス
SGS
アフノール
DQS Holding GmbH

ISO 16949は、自動車産業における品質管理の国際標準として、サプライチェーン全体での品質向上と効率化に貢献しています。

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