Incompatible Timesharing System

Incompatible Timesharing System (ITS) について

Incompatible Timesharing System（ITS）は、マサチューセッツ工科大学（MIT）で開発された初期のタイムシェアリングオペレーティングシステム（OS）の一つです。アセンブリ言語で記述されており、Compatible Time-Sharing System（CTSS）との対比としてその名が付けられました。主にMIT人工知能研究所で開発され、Project MACからも支援を受けています。

歴史

ITSの開発は、1960年代後半にProject MACにおけるMulticsプロジェクトの方向性に異を唱えた人々（主に人工知能研究所の研究者）によって開始されました。特にMulticsの強力なセキュリティ機能が問題視されました。名称は、Tom KnightがMITの初期タイムシェアリングOSであるCTSSに触発されて命名しました。

当初はDEC PDP-6向けに開発されましたが、後にPDP-10に移植され、開発の大部分はPDP-10向けに行われました。1982年以降はあまり使用されなくなりましたが、1990年までMITで稼働し、その後1995年までスウェーデンのStacken Computer Clubで運用されていました。

主な特徴

ITSには数々の革新的な機能が搭載されていました。以下はその中でも世界初の実装となった機能です。

世界初のデバイス非依存グラフィックス端末出力: プログラムは汎用的な表示制御コマンドを使用し、システムがそれを自動的に端末機器ごとの適切な制御文字列に変換しました。
ユーザープロセス内で動作する仮想デバイスの実装機構: ソフトウェアで仮想デバイスを実装するための汎用的な仕組みを提供しました。
透過的なマシン間共有型ファイルシステム: ほぼ世界初となるこの機能により、ITSマシンは全てARPANETに接続され、あるマシン上のファイルが他のマシン上にあるかのようにローカルに扱えました。
洗練されたプロセス管理: ユーザープロセスは木構造の階層を形成し、上位のプロセスが下位の複数のプロセスを制御できました。下位プロセスは任意の時点で中断させ、その状態（レジスタの内容など）を確認し、その後問題なく再開できました。
高度なソフトウェア割り込み機構: ユーザープロセスの非同期操作を可能にしました。
PCLSRing機構: 擬似不可分操作や割り込み可能なシステムコールを提供しました。従来、システムコールの実行中に自分自身を含む任意のプロセスが状態を観察することは不可能でした。

これらの機能や他の先進的な機能は、後のオペレーティングシステムに大きな影響を与えました。

ユーザー環境

ITSのユーザー環境は、当時の他のOSとは大きく異なっていました。

パスワードなしのアクセス: 当初はパスワードがなく、ユーザーはログインすることなくITSを使用できました。正式にはログインも可能でしたが、他のユーザーが誰かがシステムを使用していることを知る程度の意味しかありませんでした。
システムクラッシュコマンド: システムの問題を発見した場合、ユーザーはシステムをクラッシュさせるコマンドを自由に実行できました。このコマンドは実行者をブロードキャストで通知しました。
全ファイルの編集可能: すべてのファイルを誰でも編集できました。
ユーザー間での会話: 他のユーザーの端末間で会話ができ、使用中のユーザーに助けを求めるコマンド（SHOUT）も用意されていました。
他ユーザーの端末表示の閲覧: 他のユーザーの端末表示を閲覧する機能（OS = "output spy" コマンド）があり、見られている側には通知が行き、閲覧者とのセッションを切断する機能（JEDGARコマンド）もありました。
ゲストアクセス: ゲスト（TURIST）は、研究所内の端末だけでなく、ARPANET経由でも利用できました。ファイル名が6文字に制限されていたのは、PDP-10が36ビットワードで1文字が6ビットだったためです。
コマンドインタープリタ: ITSのトップレベルのコマンドインタプリタはPDP-10の機械語デバッガ（DDT）で、未経験者には解読不能でした。
主なエディタ: 長年TECOが使用され、Emacsは当初TECO用マクロの集まりでした。
主要なソフトウェア: ITS上では数式処理システムMacsyma、GNU INFOヘルプシステム、Maclisp、Emacsなどが開発されました。
ジャーゴンファイルの起源: ジャーゴンファイルもITS上で始まりました。

初期開発者

リチャード・グリーンブラット
スチュワート・ネルソン
トム・ナイト

参考文献

ITS bibliography
Bawden, Allen (n.d.) PCLSRing: Keeping Process State Modular
Chiou, S; Music, C; Sprague, K; Wahba,R (2001). "A Marriage of Convenience: The Founding of the MIT Artificial Intelligence Laboratory." (pdf)
Eastlake, Donald E. (1972). ITS Status Report
Lin, Yuwei (2004). “Epistemologically Multiple Actor-Centered Systems: or, EMACS At Work! Ubiquity 5(1). (pdf file)
Williams, S. (2002). Free as in Freedom: Richard Stallman's Crusade for Free Software. Petaluma, CA: O'Reilly.

外部リンク

Ken Harrenstien's PDP-10 simulator
file system images of various ITS machines
instructions allowing ITS to run on a PDP-10 emulator
(Historical) Tourist access policy in ITS at MIT.
An Introduction to ITS for the MACSYMA User
ITS System Documentation
Jargon File Entry
* Donald Fisk's ITS info

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