J・B・プリーストリー

J・B・プリーストリー（1894-1984）は、20世紀イギリスを代表する文豪の一人です。作家、劇作家、そして放送作家として多大な功績を残し、その活動は小説、戯曲、エッセイ、ノンフィクションと多岐に渡ります。彼の作品には、社会や政治への鋭い洞察と、ユーモアや皮肉が織り交ぜられており、時代を超えて読者や観客を魅了し続けています。

プリーストリーは、イギリスのブラッドフォード郊外で生まれ育ちました。教師の父と、若くして亡くなった母の元で、彼は教育を受けました。グラマースクール卒業後、地元でウール取引の仕事に就きますが、作家になるという強い夢を抱いていました。彼の初期の作品には、故郷ブラッドフォードや、彼が過ごした南イングランドの風景、そしてヴィクトリア朝建築の破壊に対する惜別の思いがしばしば反映されています。

第一次世界大戦中は兵役につき、負傷する経験もしました。その後、ケンブリッジ大学トリニティ・ホールで学び、ユーモア作家および批評家として頭角を現し始めます。30歳になる頃にはすでにその名を知られる存在となっていました。1929年に発表した小説『友達座』は、ジェームズ・テイト・ブラック記念賞を受賞し、彼を全国的な有名作家へと押し上げました。続く『天使の舗道』も大きな成功を収め、小説家としての地位を確固たるものとしました。しかし、常に批評家の辛辣な意見にさらされることにもなり、中には法的措置を取る事態もあったようです。

小説家としての成功の後、プリーストリーは劇作家の道へと進みます。1932年の『危険な曲り角』はウェストエンド劇場で絶賛され、彼の劇作家としての才能を広く知らしめました。しかし、彼の最も有名な作品は、1946年に発表された戯曲『夜の来訪者』です。この作品は、現代社会の闇を鋭くえぐり出すそのメッセージ性から、世界中で繰り返し上演され、映画化もされています。現在でも、多くの国で上演され、高い評価を得ています。

プリーストリーの戯曲は、小説よりも実験的なスタイルが多く見られます。特に、『危険な曲り角』や『時間とコンウェー一家』などには、時間に関する独自の哲学が反映されています。彼の作品には、社会主義的な思想が色濃く反映されており、『夜の来訪者』を始めとする「時間物」と呼ばれる戯曲群では、社会正義や社会改革への強い思いが表現されています。

第二次世界大戦中は、BBCで人気ラジオ番組の司会を務め、大衆に大きな影響を与えました。日曜夜に放送された『あとがき』は、1600万人もの聴取者を獲得し、チャーチル首相に次ぐ人気を誇りました。しかし、その内容が左翼的すぎると批判され、番組を降ろされることになります。それでも、彼は1941コミッティーの議長を務め、戦後の社会改革運動にも深く関わりました。社会主義を基盤とした新しい社会福祉党の共同設立者となり、戦後のイギリス社会に多大な影響を与えたとされています。しかし、彼自身は国家や特定のイデオロギーに固執するタイプの人物ではなかったとされています。

プリーストリーは生涯で3度結婚し、子供にも恵まれました。核兵器廃絶運動の設立メンバーにもなり、1977年にはメリット勲章を受章しました。

1934年には旅行記『イングランド紀行』を発表しています。また、時間に関する彼の深い関心は、1964年のエッセイ集『人間と時間』に結実しました。この本では、時間に関する様々な理論や、予知夢といった超常現象についても考察しています。

プリーストリーは、公式な回顧録を出版することはありませんでしたが、『Margin Released』のような著作は、彼の生き方や作品への理解を深める上で重要な手がかりを与えてくれます。彼の作品は、一見何の変哲もない日常の出来事や、ありふれた人物像から、人間の本質を鋭くえぐり出す優れた文学作品として高く評価されています。ブラッドフォードのウール仕分け事務所で働いていた頃の経験などは、そうした彼の文学スタイルをよく表していると言えるでしょう。

小説、戯曲、エッセイ、ノンフィクションなど、多岐にわたるジャンルで数多くの作品を発表したJ・B・プリーストリー。彼の作品は、現代社会に警鐘を鳴らすだけでなく、私たちに深い感動と思索を与え続けています。彼の作品を読み解くことは、20世紀イギリス社会を理解し、そして現代社会を考える上で重要な一歩となるでしょう。

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