J-3100シリーズ

J-3100シリーズ：東芝が切り開いた日本のビジネスPC市場

1986年、東芝はビジネスシーンを革新するパーソナルコンピュータ（PC）シリーズ、J-3100シリーズを発表しました。このシリーズは、PC/AT互換機|PC_AT互換機アーキテクチャを基盤に、独自開発の日本語表示機能を統合した点が大きな特徴です。これにより、日本語環境でのスムーズな情報処理が可能となり、ビジネスパーソンにとって強力なツールとなりました。当初はラップトップモデルとデスクトップモデルが展開されていましたが、後にJ-3100という型番に統一されました。1991年にはDOS/V|DOS_V機への移行が始まり、J-3100アーキテクチャは歴史の幕を閉じました。

J-3100シリーズの黎明期：日本語処理機能の搭載

シリーズの幕開けを飾ったのは、1986年発売のJ-3100B11/B12です。このモデルは、欧米で販売されていたPC/AT互換機|PC_AT互換機をベースに、日本語処理機能が追加されました。英語モードではPC/AT互換、CGA互換グラフィックが利用可能で、日本語モードでは640×400ドットのグラフィック画面と漢字ROMによりソフトウェアによる日本語表示を実現していました。標準では日本語MS-DOSが付属していましたが、英語モードを使用するには英語版MS-DOSの別途購入が必要でした。PC/AT互換性を謳いつつも、実際に英語版MS-DOSを購入したユーザーはわずか1割に過ぎなかったものの、その高い性能とコンパクトなデザインは企業ユーザーを中心に高い人気を集め、2年間で累計7万台を販売するヒットシリーズとなりました。

DynaBookの登場：モバイルPC市場への挑戦

1989年6月、東芝はA4サイズで低価格を実現したJ-3100SS DynaBookを発表しました。営業マンやワープロユーザー、そして個人ユーザーまでをターゲットに開発されたこのモデルは、3kg未満、A4サイズ、FDD内蔵というスペックに加え、20万円を切る価格設定が大きな話題を呼びました。これに伴う大規模なマーケティング展開は、それまでの東芝のパソコン事業とは全く異なるものでした。「みんな、これを、目指してきた」というキャッチコピー、アラン・ケイが提唱した「DynaBook」という名称、そして宣伝キャラクターとして鈴木亜久里を起用するなど、積極的なプロモーションが展開されました。このDynaBookの登場は、日本のPC市場において大きな衝撃を与え、日本電気もPC-9801Nという競合製品を開発するなど、大きな影響を与えました。DynaBookは当初は好調な滑り出しを見せましたが、1990年には日本電気のPC-9801Nの販売台数に抜かれることとなります。

DOS/V|DOS_Vへの移行とJ-3100シリーズの終焉

小型ノートパソコンは、その後もJ-3100の型番を継承しつつDynaBookブランドとして展開されました。1991年にはデスクトップモデルもJ-3100型番で発売されましたが、同年10月、VGAを搭載したDynaBook VシリーズとOADG準拠のDOS/V|DOS_Vが発表されると、東芝の主力製品はDOS/V|DOS_V機へと移行し、J-3100アーキテクチャは終息に向かいました。なお、1991年にはプラズマディスプレイを搭載したJ-3100SXモデルも発売されています。2018年には東芝のパソコン事業がシャープへ譲渡され、現在はシャープと東芝の合弁会社であるDynabook株式会社として事業が継続されています。

代表的なモデル：J-3100B11/B12とJ-3100SS DynaBook

J-3100B11/B12 (1986年10月13日発表、11月出荷)

シリーズの初代機。CPUは80286 8MHz、RAMは640KB+2MBを搭載。B11モデルは3.5インチ2DD FDD×2、B12モデルは3.5インチ2DD FDDと3.5インチ10MB HDDを内蔵。640×400ドットのモノクロプラズマディスプレイを搭載し、外部カラーディスプレイ接続も可能でした（英語モードのみ）。外部拡張スロットは8ビット（PC/XT互換）スロット×5。重量はB11モデルが6.6kg、B12モデルが6.8kgと、当時の機種としては重量級でした。

J-3100SS DynaBook (1989年6月26日発表、7月24日出荷)

A4ファイルサイズを実現したノートパソコン。CPUは80C86 10MHz、RAMは640KB+896KBを搭載。3.5インチ2HD(1.2MB) FDD×1、640×400ドットのモノクロELバックライト液晶ディスプレイを搭載。バッテリー駆動時間は約2.5時間でした。サイズはW310×D254×H44mm、重量は2.7kg。FDD内蔵ながらA4サイズを実現したコンパクトさと、198,000円という低価格が話題となり、1990年6月末までに累計17万台を販売しました。

J-3100シリーズの遺産

J-3100シリーズは、日本のビジネスPC市場に大きな影響を与えました。PC/AT互換機|PC_AT互換機をベースに日本語処理機能を搭載したことで、ビジネスシーンでのPC活用を大きく促進しました。また、DynaBookはモバイルPCという新たな市場を開拓し、現代のモバイルPCの礎を築いたと言えるでしょう。その歴史的意義は、現代のパソコン市場を考える上でも重要な要素となっています。

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