J002E3

J002E3

J002E3は、2002年9月3日にアマチュア天文学者の楊光宇氏によって発見された天体です。当初、この物体は小惑星であると考えられ、仮符号J002E3が与えられました。しかし、その後の詳細な観測と分析によって、この物体が天然の小惑星ではなく、アポロ12号の月ミッションで使用されたサターンVロケットの第3段ステージ（S-IVB-507）であることが明らかになりました。

発見時の驚き

J002E3が発見された際、その天体が地球の周回軌道上に存在することがすぐに明らかになりました。これは天文学者の間で大きな驚きをもって迎えられました。なぜなら、月以外の比較的大きな物体が地球を周回する軌道に長期間安定して留まることは非常に稀だからです。地球、月、太陽という三体間の重力の影響（摂動）により、地球周回軌道に一時的に捕獲された天体であっても、やがてその軌道は不安定になり、地球の重力圏から離脱していくのが一般的なのです。

正体特定の過程

このことから、J002E3は比較的新しい時期に地球周回軌道に進入した物体に違いないと考えられました。しかし、J002E3の軌道と一致するような近年の宇宙機の打ち上げ記録は存在しませんでした。一時期は、直径30メートル級の小惑星である可能性も指摘されましたが、アリゾナ大学の研究チーム、カール・ハーゲンローザー氏らは、J002E3の電磁スペクトルを詳細に分析しました。

その結果、このスペクトルパターンが、サターンVロケットの外装に用いられていた白色二酸化チタン塗料のスペクトルと驚くほど一致することが判明したのです。この発見は、J002E3が人工物である可能性を強く示唆しました。

過去の軌道とアポロ計画

スペクトル分析による手がかりを得た研究者たちは、J002E3の過去の軌道を計算する「バック・トラッキング」を行いました。これにより、この物体が発見されるまでの約31年間、主に太陽の周りを公転する軌道にあったことが明らかになりました。さらに、1971年頃には地球の近傍に位置していたことも判明しました。

この時期に地球近傍にあった大型人工物という条件から、アポロ計画のロケットステージが候補として浮上しました。当初はアポロ14号ミッションで使用されたS-IVBステージが検討されましたが、NASAはアポロ14号で使われた全てのハードウェアの正確な追跡データを保持しており、J002E3の軌道とは一致しなかったため除外されました。

最終的に残った唯一の可能性が、アポロ12号で使用されたサターンVロケットの第3段ステージ（S-IVB-507）でした。アポロ12号のミッションでは、このS-IVBステージは月のスイングバイを利用して地球-月系を離脱し、太陽周回軌道へ投入される計画でした。

しかし、分離後のアリッジモーターの燃焼が予定より長く続きすぎたため、地球-月系から完全に脱出するのに必要なエネルギーを得ることができませんでした。その結果、S-IVBは1969年11月18日に月近傍を通過した後、地球を周回する不安定な準安定軌道に入り込み、その後の観測から外れて行方不明となっていたものと考えられます。

2002年に発見されたJ002E3の軌道と、アポロ12号S-IVBの行方不明となった時期の軌道予測が合致したことから、J002E3がこのアポロ12号の第3段ロケットステージであると特定されました。

その後の動向

J002E3は地球周回軌道に一時的に「捕獲」されていましたが、その後、重力的な摂動の影響を受けて軌道が変化し、2003年6月頃に再び地球周回軌道から離脱して、太陽周回軌道に戻ったと考えられています。現在の軌道予測によれば、J002E3は今後も軌道を変えながら公転を続け、およそ2032年頃には再び地球に接近し、一時的に地球周回軌道に捕獲される可能性があると予測されています。

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