KEIRINグランプリ'89

KEIRINグランプリ'89中止事件

1989年12月30日に立川競輪場で開催予定だったKEIRINグランプリ'89は、競輪史上前例のない、開催中止という結末を迎えました。この背景には、当時の競輪界における賞金制度に対する選手たちの不満が大きく関わっていました。

賞金増額闘争の勃発

1980年代後半、競輪の売上はバブル景気も追い風となり、4年連続で前年比増を記録していました。しかし、競輪選手の賞金総額は、売上見込みの3%程度という長年の慣例に縛られていました。当時、中央競馬や競艇が大幅な賞金増額を行っていた状況下で、競輪の賞金総額の低さは、選手たちの間で不満を高めていました。

選手会は、この状況を打開するため、当時の日本競輪選手会理事長であった片折行氏を中心に、全国競輪施行者協議会を通じて、1990年度の賞金総額を前年比約25%の大幅増額を要求しました。さらに、この要求が受け入れられない場合には、KEIRINグランプリ'89を含む立川競輪S級シリーズの先頭誘導員を斡旋しないという、ストライキも辞さない構えを示しました。

交渉決裂と開催中止

主催者側は、選手会側の要求に対して、大幅な増額は受け入れられないと拒否しました。選手会側も、25%増額という要求は撤回しましたが、10%以上の賞金増額を求め続けました。しかし、主催者側は「3%ルール」を固守する姿勢を崩さず、交渉は決裂しました。これにより、選手会が示唆していたグランプリ中止が現実味を帯びてきました。

そして、開催決断のタイムリミットとなった12月25日、選手会理事長の片折氏が協議会との会合を拒否したため、主催者側はグランプリの中止を決定。立川市もこれを受け入れ、グランプリを含む立川競輪S級シリーズの中止を発表しました。この決定により、立川市は130億円の売上を失うだけでなく、広告費用や選手への補償金など、多大な損害を被ることになりました。

騒動の収束とその後

選手会は、グランプリだけでなく、1990年1月12日からの大宮競輪記念開催までストライキの対象としていたため、事態を収拾するため、日本自転車振興会や自転車競技会全国協議会も加わり、年末年始に集中的な会合が行われました。しかし、会合でも意見の隔たりは埋まらず、最終的には、通商産業省の機械情報局長を委員長とする中央登録競輪選手制度改善委員会に裁定を一任することで合意。1月8日に改善委員会から下された裁定に、選手会と主催者側がそれぞれ同意し、12日からの大宮記念は無事開催されました。

この裁定により、当初の要求からは減額されたものの、1990年度の賞金総額は増額され、長年の慣習であった「3%ルール」は事実上撤廃されました。

グランプリ中止後の動き

グランプリ中止の穴埋めとして、テレビ東京やラジオ局が代替番組を放送しました。また、1990年5月には、前橋競輪場で『スーパープロピストレーサー賞』が開催され、当グランプリに出場予定だった選手が参加しました。このレースは、後の寬仁親王牌・世界選手権記念トーナメントの誕生に繋がる、重要な一戦となりました。

なお、1989年のグランプリメンバーに選出された選手のうち、波潟和男、郡山久二、小川博美、工正信の4名については、この大会が唯一のグランプリ選出歴となりました。また、2023年1月には工正信選手が引退し、この大会に出場予定だった9名全員が引退しました。

この一連の騒動は、競輪界の賞金制度に対する不満が表面化した出来事であり、その後の制度改革に繋がる大きな転換点となりました。なお、KEIRINグランプリ'89は、レースとしては中止となりましたが、開催回数としては第5回としてカウントされています。

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