KO-6
KO-6、あるいは制式名称TSEC/KO-6は、1949年に米国ベル研究所で開発され、冷戦初期のアメリカ軍において重要な通信の機密保持を担った暗号化装置です。このシステムは、単一の装置で音声通話、ファクシミリ送受信、さらには複数回線のテレタイプ通信といった多岐にわたる信号の全二重暗号化を可能にしていました。主に1950年代半ばから1960年代半ばにかけて運用され、その多機能性から「多目的」を意味する"O"が名称に冠されています（"K"は暗号化を意味します）。
KO-6の開発背景には、第二次世界大戦中にベル研究所が開発・運用した世界初のデジタル音声暗号システム、SIGSALYの存在があります。1943年から1946年にかけて連合国首脳間の通信保護に貢献したSIGSALYは、その革新性とは裏腹に、装置全体の重さが約55トン、消費電力30kW、30以上の標準ラックを占める極めて大規模かつ複雑なシステムでした。運用には多大な手間とコストがかかるため、終戦と共に役目を終えましたが、秘話通信の必要性は引き続き高く、アメリカ政府とベル研究所はより実用的で運用コストを抑えた後継システムの開発に着手。その成果として1949年に誕生したのがKO-6でした。
SIGSALYからの小型化が図られたとはいえ、KO-6も依然として大型の装置でした。そのサイズは大型電気冷蔵庫3台分に匹敵し、重量は約1トン、消費電力は3kWに及びました。SIGSALYが主に音声通信に特化していたのに対し、KO-6はその名の通り多目的性が追求され、音声信号だけでなく、ファクシミリやテレタイプの信号暗号化にも対応しました。ただし、音声信号の圧縮にSIGSALYと同様のアナログボコーダー技術が用いられたため、音質は必ずしも良好ではなく、音声モードの利用頻度は低かったとも言われています。装置は3台のラックで構成され、各ラックは上下2つのユニットに分かれているため、全体としては6つの主要ユニットから成り立っていました。送信部と受信部が独立したユニットとして設計されていたため、同時送受信が可能な全二重通信の暗号化に対応していました。
内部には当時としては驚異的な1,500本以上の真空管が使用されており、その複雑さゆえに、SIGSALYと同様に常時専門家による較正が必要でした。また、装置が容易に移動できないサイズであること、内部情報漏洩のリスクを考慮し、緊急時に装置全体を迅速に破壊するための仕組みも備えられていました。具体的には、ラック最上部に高熱を発生させるテルミット装置が設置され、起動すれば短時間で装置を融解させ、金属の塊へと変えることができました。
暗号化と復号に用いられる共通鍵の生成方式は、運用コストの観点からSIGSALYから大幅な変更が加えられました。SIGSALYでは、盗聴に対し理論的に解読不可能なバーナム暗号（ワンタイムパッド）の原理を応用し、あらかじめ記録された使い捨ての乱数（音盤にデジタル録音）を用いていました。この方式は安全性は極めて高かったものの、送信側と受信側で全く同じ未使用の乱数系列を物理的に配布する必要があり、大量の音盤製造と密使による輸送という膨大な運用コストがかかりました。これに対し、KO-6ではより効率的な鍵生成方式が採用されました。ギアメカニズムを用いた内部生成により、現在のストリーム暗号に近い疑似乱数を生成する方式です。
KO-6のラック最上部には、取り外し可能な約12インチ四方の鍵生成装置が2台収められていました。この装置は、複数のギアを組み合わせた電気機械的なメカニズムで動作します。各ギアにはスロットが設けられ、小さな棒状の磁石が埋め込まれており、ギアの回転に応じて近くのピックアップが周期的なパルス信号を発生させます。これらのパルス信号を複雑に組み合わせることで、非常に長い周期を持つ疑似乱数を生成し、これを共通鍵として使用しました。1963年頃には、磁石によるパルス生成方式が、回転軸後方の交換可能なプラスチック円盤のスロットと光学式ピックアップを用いる方式に改良され、パターンの変更が容易になりました。生成される疑似乱数の周期は非常に長大だったとされ、NSAのデビッド・G・ボーク氏の講義では、鍵生成メカニズム内の6つの金属ディスクが全て元の位置に戻るまでにおよそ33年かかると説明されています。これにより、当時の技術水準では事実上、周期を特定して解読することは困難でした。
SIGSALYに比べて小型化されたとはいえ、KO-6は依然として大型かつ複雑であり、その扱いにくさから限定的な台数しか運用されなかったと言われています。KO-6の開発後も、より小型軽量な暗号化装置の開発は進みました。1953年には音声暗号化装置KY-9が登場。これは12チャンネルのボコーダーとハンドメイドのトランジスタを採用し、重量は256kg（約565ポンド）まで軽減されました。サイズもサイドデスク程度になり、例えば1962年10月のキューバ危機の際には、ジョン・F・ケネディ大統領がパリのノースタッド将軍との協議にKY-9を使用した記録が残っています。KO-6やSIGSALYよりは安価でしたが、それでも1台あたり4万ドルと高価だったため、主に政府高官向けの通信用に300台弱が生産されました。さらに1961年には、モジュール化された回路を用いたHY-2 16チャンネルボコーダーが開発され、重量は45kg（約100ポンド）まで劇的に軽量化されました。KO-6は、巨大で運用コストの高いSIGSALYから、トランジスタ化・小型化が進んだ後継機への過渡期にあたる、多機能ながらも電磁機械的な時代の特徴を色濃く残した重要な暗号化装置と言えます。
KO-6の開発背景には、第二次世界大戦中にベル研究所が開発・運用した世界初のデジタル音声暗号システム、SIGSALYの存在があります。1943年から1946年にかけて連合国首脳間の通信保護に貢献したSIGSALYは、その革新性とは裏腹に、装置全体の重さが約55トン、消費電力30kW、30以上の標準ラックを占める極めて大規模かつ複雑なシステムでした。運用には多大な手間とコストがかかるため、終戦と共に役目を終えましたが、秘話通信の必要性は引き続き高く、アメリカ政府とベル研究所はより実用的で運用コストを抑えた後継システムの開発に着手。その成果として1949年に誕生したのがKO-6でした。
SIGSALYからの小型化が図られたとはいえ、KO-6も依然として大型の装置でした。そのサイズは大型電気冷蔵庫3台分に匹敵し、重量は約1トン、消費電力は3kWに及びました。SIGSALYが主に音声通信に特化していたのに対し、KO-6はその名の通り多目的性が追求され、音声信号だけでなく、ファクシミリやテレタイプの信号暗号化にも対応しました。ただし、音声信号の圧縮にSIGSALYと同様のアナログボコーダー技術が用いられたため、音質は必ずしも良好ではなく、音声モードの利用頻度は低かったとも言われています。装置は3台のラックで構成され、各ラックは上下2つのユニットに分かれているため、全体としては6つの主要ユニットから成り立っていました。送信部と受信部が独立したユニットとして設計されていたため、同時送受信が可能な全二重通信の暗号化に対応していました。
内部には当時としては驚異的な1,500本以上の真空管が使用されており、その複雑さゆえに、SIGSALYと同様に常時専門家による較正が必要でした。また、装置が容易に移動できないサイズであること、内部情報漏洩のリスクを考慮し、緊急時に装置全体を迅速に破壊するための仕組みも備えられていました。具体的には、ラック最上部に高熱を発生させるテルミット装置が設置され、起動すれば短時間で装置を融解させ、金属の塊へと変えることができました。
暗号化と復号に用いられる共通鍵の生成方式は、運用コストの観点からSIGSALYから大幅な変更が加えられました。SIGSALYでは、盗聴に対し理論的に解読不可能なバーナム暗号（ワンタイムパッド）の原理を応用し、あらかじめ記録された使い捨ての乱数（音盤にデジタル録音）を用いていました。この方式は安全性は極めて高かったものの、送信側と受信側で全く同じ未使用の乱数系列を物理的に配布する必要があり、大量の音盤製造と密使による輸送という膨大な運用コストがかかりました。これに対し、KO-6ではより効率的な鍵生成方式が採用されました。ギアメカニズムを用いた内部生成により、現在のストリーム暗号に近い疑似乱数を生成する方式です。
KO-6のラック最上部には、取り外し可能な約12インチ四方の鍵生成装置が2台収められていました。この装置は、複数のギアを組み合わせた電気機械的なメカニズムで動作します。各ギアにはスロットが設けられ、小さな棒状の磁石が埋め込まれており、ギアの回転に応じて近くのピックアップが周期的なパルス信号を発生させます。これらのパルス信号を複雑に組み合わせることで、非常に長い周期を持つ疑似乱数を生成し、これを共通鍵として使用しました。1963年頃には、磁石によるパルス生成方式が、回転軸後方の交換可能なプラスチック円盤のスロットと光学式ピックアップを用いる方式に改良され、パターンの変更が容易になりました。生成される疑似乱数の周期は非常に長大だったとされ、NSAのデビッド・G・ボーク氏の講義では、鍵生成メカニズム内の6つの金属ディスクが全て元の位置に戻るまでにおよそ33年かかると説明されています。これにより、当時の技術水準では事実上、周期を特定して解読することは困難でした。
SIGSALYに比べて小型化されたとはいえ、KO-6は依然として大型かつ複雑であり、その扱いにくさから限定的な台数しか運用されなかったと言われています。KO-6の開発後も、より小型軽量な暗号化装置の開発は進みました。1953年には音声暗号化装置KY-9が登場。これは12チャンネルのボコーダーとハンドメイドのトランジスタを採用し、重量は256kg（約565ポンド）まで軽減されました。サイズもサイドデスク程度になり、例えば1962年10月のキューバ危機の際には、ジョン・F・ケネディ大統領がパリのノースタッド将軍との協議にKY-9を使用した記録が残っています。KO-6やSIGSALYよりは安価でしたが、それでも1台あたり4万ドルと高価だったため、主に政府高官向けの通信用に300台弱が生産されました。さらに1961年には、モジュール化された回路を用いたHY-2 16チャンネルボコーダーが開発され、重量は45kg（約100ポンド）まで劇的に軽量化されました。KO-6は、巨大で運用コストの高いSIGSALYから、トランジスタ化・小型化が進んだ後継機への過渡期にあたる、多機能ながらも電磁機械的な時代の特徴を色濃く残した重要な暗号化装置と言えます。
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