KSI (音楽家)

KSI

オラジデ・オライインカ・ウィリアムズ・オラトゥンジ（Olajide Olayinka Williams Olatunji）は、1993年6月19日生まれのイギリスの著名なインフルエンサーです。一般には通称であるKSIとして広く知られており、YouTuber、ラッパー、実業家、そしてプロボクサーと多岐にわたる顔を持ちます。イギリスの人気YouTubeグループ「サイドマン」の中心メンバーの一人としても活躍しています。

ナイジェリアにルーツを持つKSIは、通称「KSI」がKnowledge（知識）、Strength（強さ）、Integrity（誠実さ）の頭文字に由来すると明かしています。メディアからの評価も高く、タイムズ紙によってイギリスで2番目に影響力のあるオンラインクリエイターにランクインしたこともあります。趣味はサッカー観戦で、アーセナルFCの熱烈なサポーターとしても知られています。弟のデジもYouTuberとして活動しています。

YouTuberとしてのキャリア

KSIのオンラインでのキャリアは、2009年7月24日に開設されたメインのYouTubeチャンネルから始まりました。当初は人気サッカーゲーム「FIFA」シリーズの実況プレイ動画で注目を集め、登録者数を急速に伸ばしました。その後、活動の幅を広げ、Vlogやコメディ要素の強い動画を投稿することで、さらなる人気を獲得し、YouTubeクリエイターとしての地位を確立しました。

音楽活動

YouTubeでの成功と並行して、KSIは音楽分野にも進出しました。ラッパーとしての活動は、サッカー関連のコンテンツを題材にしたラップからスタートしました。2015年3月には、ソロ名義では初のシングルとなる「ランボルギーニ」をリリース。その後も精力的に楽曲を発表し、複数のEPを制作しました。特に、2020年に発表したデビューアルバム「Dissimulation」は全英アルバムチャートで2位を記録。続く2021年の2枚目のアルバム「All Over the Place」は、自身初の全英アルバムチャート1位を獲得するなど、ミュージシャンとしても確かな実績を残しています。

ボクシングキャリア

KSIのキャリアにおいて、ボクシングは新たな大きな柱となりました。

アマチュアボクシング

2018年2月3日、ロンドンのカッパー・ボックス・アリーナでアマチュアボクシングデビューを果たし、YouTuberのジョー・ウェラーに3ラウンドTKOで勝利しました。同年8月25日には、アメリカの人気YouTuber、ローガン・ポールとのアマチュア戦が実現。ヘッドギアと12オンスグローブを着用した3分6ラウンドのこの試合は、「歴史上最大のインターネットイベント」「史上最大のアマチュアボクシングマッチ」と喧伝され、大きな話題を呼びました。試合は判定の結果、1-0の引き分けとなりましたが、YouTubeのペイ・パー・ビュー配信では視聴価格10ドルにもかかわらず、120万件を超える販売数を記録し、商業的に大きな成功を収めました。

プロボクシング

2019年11月9日、ローガン・ポールとの再戦がプロボクシングの舞台で実現しました。プロモーターのエディー・ハーンが手掛け、両者ともにプロライセンスを取得してのクルーザー級6回戦として行われたこの試合は、一部のボクシング関係者やファンから「ボクシングへの侮辱」といった批判も浴びましたが、カリフォルニア州アスレチックコミッションの責任者はアスリートのデビュー戦として問題ないとの見解を示し、ニューヨーク・タイムズ紙も新規ファン獲得につながると報じるなど、肯定的な意見もありました。試合は、4ラウンドにダウンを奪われるも、ポールがダウンしたKSIの後頭部に追撃したパンチが反則と見なされ、2点の減点処分を受ける展開に。結果、KSIが2-1の判定で勝利を手にしました。この試合は、DAZNアメリカにおけるボクシング中継史上、最高の視聴者数を記録し、ジャスティン・ビーバーやマイク・タイソンなど多くの著名人が観戦に訪れるなど、興行的にも大成功を収めました。両選手のファイトマネーは、それぞれ約90万ドル（約9800万円）と報じられています。

Misfits Boxingとインフルエンサーボクシング

KSIは、インフルエンサーやセレブリティによるボクシングイベントの可能性に着目し、2021年6月22日にはワッサーマン・メディア・グループと提携してボクシングプロモーション会社「Misfits Boxing」を設立、CEOに就任しました。また、スポーツドリンク「Prime」、ウォッカ「XIX Vodka」、レストランチェーン「Sides」など、複数の事業の共同経営にも関わっています。2022年7月1日には、Misfits BoxingとDAZNが提携し、「MF & DAZN: X Series」という新たなボクシング興行シリーズの開始を発表しました。同年8月27日に行われたその第1弾興行「MF & DAZN: X Series 001」では、プロフェッショナルボクシング協会（PBA）が認可したICB世界クルーザー級王座決定戦を含むメインイベントとセミファイナルで1日に2試合をこなし、王座を獲得し初防衛を果たすなど、活躍を見せました。この興行もDAZNで世界配信され、高い視聴者数を記録しています。2023年1月には、DAZNとMisfits Boxingが5年間の独占契約を締結したことが発表され、インフルエンサーボクシングのさらなる展開が期待されています。

しかし、2023年5月13日のジョー・フォーニエ戦では、2ラウンドKO勝利を収めたものの、KOに至るパンチが反則の肘打ちであったとしてフォーニエ側が提訴。その結果、5月19日にはプロフェッショナルボクシング協会によって試合結果がノーコンテスト（無効試合）に変更される裁定が下されました。

論争と騒動

その影響力の大きさゆえに、KSIはいくつかの論争や騒動に巻き込まれた経験があります。

「レイプ顔」発言: 2012年から2013年にかけて、自身の動画内で自称として「レイプ顔」という言葉を繰り返し使用したことで、広範な批判を招きました。
セクシャルハラスメント疑惑: 2012年のEurogamerイベントにおいて、女性スタッフへのセクシャルハラスメントに関する第三者からの告発を受け、論争の渦中に巻き込まれました。性的暴行を行ったとまで告発される事態となり、これによりマイクロソフトはKSIとの関係を解消し、彼はEurogamerイベントへの参加資格を失いました。KSIはその後、謝罪を行い、この件から学び、前進したいとの意向を示しました。
* 人種的中傷の使用: 2023年4月には、自身が所属するサイドマンの動画内で人種的な侮辱表現である「パキ」を使用し、再び批判を浴びました。自身のTwitterで謝罪し、ソーシャルメディア活動の一時休止を発表。動画は削除されました。その後、「学びを得るため」としてモスクを訪問し、自身の発言が引き起こした不快感や失望について改めて謝罪しました。この騒動を受け、BBCはインフルエンサーが出演する予定だったテレビ番組の中止を決定するなど、影響は各方面に及びました。

多岐にわたる分野で成功を収める一方で、公の場での発言や行動が大きな注目を集めるKSIは、その影響力と責任について常に問われる存在でもあります。YouTuber、ミュージシャン、ボクサー、そして実業家として、彼はエンターテインメント業界に新たな潮流を生み出し続けています。

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