LR-91

LR-91

概要

LR-91は、アメリカのエアロジェット社によって開発された液体燃料ロケットエンジンです。このエンジンは、アメリカ空軍が運用した大陸間弾道ミサイル（ICBM）であるタイタンシリーズ、およびその技術を基に開発された様々な宇宙打ち上げロケットの第二段に主に使用されました。LR-91は、タイタンロケットがその多様なミッションを遂行する上で不可欠な存在であり、その高性能と信頼性をもってアメリカの宇宙開発および国防に貢献しました。

開発と設計

LR-91の開発は1950年代初頭に始まりました。これは、タイタンICBMの第一段エンジンとして開発が進められていた大型エンジン、LR-87の小型版として構想されました。LR-87と共通の基本的な設計思想を持ちながらも、第二段エンジンとして必要な仕様に合わせて小型化、軽量化が施されました。エンジンの冷却システムにおいては、燃焼室では燃料を循環させて冷却する再生冷却方式を採用しましたが、高熱に晒されるノズル部分では、材料の気化熱を利用して冷却するアブレーション冷却方式が用いられました。これは、エンジンのサイズや要求性能に応じた効率的な設計判断でした。また、大気圏外の低圧環境で最大の推力を得るため、ノズルは高い膨張比を持つ形状に設計されています。

推進剤システムの進化

LR-91は開発初期段階において、酸化剤として液体酸素を、燃料としてRP-1（ロケット用ケロシン）を使用していました。しかし、液体酸素は極低温での貯蔵が必要であり、ミサイルを発射可能な状態で待機させるには、発射直前に推進剤を充填する必要がありました。この方式では、発射指令を受けてから実際にミサイルを発射するまでの時間が長くかかり、即応性に課題がありました。

冷戦期のICBMに求められる即応性を高めるため、LR-91の推進剤システムは改良されることになります。酸化剤を二酸化窒素（NTO）、燃料をエアロジン-50（ヒドラジンと非対称ジメチルヒドラジンUDMHを50%ずつ混合したもの）に変更したのです。これらの推進剤は常温で液体として貯蔵が可能であり、かつ両者が触れ合うだけで自然に燃焼を開始する性質を持つハイパーゴリック推進剤です。この変更により、LR-91を搭載したタイタンミサイルは常に推進剤を充填した状態で待機できるようになり、指令から数分以内での迅速な発射が可能となりました。

さらに、LR-87とは異なる特徴として、LR-91には液体水素を燃料として使用するよう再設計された派生型も存在し、これがタイタンミサイルの第二段で使用されたとされています。これは、後の高エネルギー推進剤への対応を示唆する技術的な進展でした。

タイタンロケットでの運用と主な派生型

LR-91エンジンは、タイタンICBMの初期型から、その後の宇宙打ち上げロケットとしてのタイタンII、タイタンIII、そして大型のタイタンIVに至るまで、各世代の第二段エンジンとして採用され続けました。その長い運用期間の中で、性能向上や用途に応じたいくつかの派生型が生まれました。

LR-91-3: 液体酸素/RP-1を使用する初期生産型。
LR-91-5: 推進剤を二酸化窒素/エアロジン-50に変更し、即応性を向上させた型。タイタンII ICBMや、ジェミニ計画で使用されたタイタンII GLVの基本となりました。
LR-91-7: ジェミニ計画向けタイタンII GLV用に、特に信頼性が強化された型。有人宇宙飛行ミッションを支えました。
LR-91-9: タイタンIIIA打ち上げロケットに使用された型です。
LR-91-11: LR-91シリーズの後期における主要なバージョン。タイタンIIIB以降の多くの派生型や、強力なタイタンIV打ち上げロケットの第二段エンジンとして、多数の衛星や探査機の打ち上げに貢献しました。

これらの派生型を通じて、LR-91はタイタンロケットが軍事用ミサイルから多目的宇宙ロケットへと進化していく過程を技術的に支えました。

まとめ

LR-91エンジンは、エアロジェット社が開発し、タイタンロケットシリーズの第二段エンジンとして長期間にわたり運用された、極めて重要な液体燃料ロケットエンジンです。即応性を高めるための推進剤転換や、多岐にわたる派生型の開発・運用は、LR-91の設計が持つ柔軟性と信頼性の高さを証明しています。冷戦期のアメリカ国防における戦略的抑止力として、またその後の宇宙開発における基盤技術として、LR-91は歴史に名を刻むエンジンと言えるでしょう。

関連項目

LR-87
タイタン (ロケット)
AJ-10
ハイパーゴリック推進剤

外部リンク

Encyclopedia Astronautica
www.aerospacemuseumofcalifornia.org
http://cobweb.ecn.purdue.edu/

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