M11 (天体)

たて座の領域に位置するM11（NGC 6705）は、夜空で特に目を引く散開星団の一つです。この星団は、その美しさと多くの興味深い特徴から、アマチュア天文家の間でも人気のある観測対象となっています。

M11の際立った特徴は、その密度の高さにあります。多くの散開星団と比較して、M11は驚くほど多数の恒星が狭い範囲に密集しており、あたかも球状星団の一部であるかのような印象すら与えます。この密集した姿から、「野鴨星団（Wild Duck Cluster）」という親しみやすい愛称で呼ばれています。この愛称は、19世紀の天文学者ウィリアム・ヘンリー・スミスが、星団の形がまるで空を飛翔する野鴨の群れのように見えると形容したことに由来すると伝えられています。

M11を観測する際の見え方は、使用する機材によって大きく異なります。

一般的な双眼鏡を用いると、たて座の特定の領域に、周囲よりやや明るいぼんやりとした光の斑点として捉えることができます。個々の星を分離して見ることは難しいですが、星団の存在を確認するのに十分です。

口径5cm程度の小型の望遠鏡を使うと、この光の斑点が個々の星に分解され始め、多数の星が集まっている様子がはっきりとわかります。

さらに口径の大きな望遠鏡や高倍率での観測では、M11が特徴的な扇形、あるいは三角形やV字形に広がっているように見えることが観察できます。この扇形の「かなめ」やV字の頂点付近には、8等級の目立つ星が輝いています。この星はオレンジ色またはサフラン色に見えることが多く、観測者にとっては星団を見つける際の良い目印となります。しかし、興味深いことに、この明るい星はM11星団の物理的なメンバーではありません。見かけ上、同じ方向に見えているだけで、実際には星団とは異なる距離に位置しています。それでも、あたかもこの星から扇状に星団の星々が「わき出している」かのように見える視覚効果は、M11の観測を一層魅力的なものにしています。

M11の周囲の宇宙空間もまた、観測の対象として興味深い要素を含んでいます。星団の周辺には、いくつかの暗黒星雲が存在し、背景の星明かりを隠すことで、M11の輝きをより際立たせています。特に、M11のすぐ南側には、空が暗く切り取られたように見える暗黒帯B318があります。さらにその南には、まるで黒い池のように見える暗黒星雲B112が横たわっています。これらの暗黒星雲は、M11を「囲む」ように存在し、星団の光景に深みを与えています。また、M11から北西に約1度離れた位置には、おうし座RV型変光星として知られるたて座R星が輝いており、こちらも双眼鏡や望遠鏡で比較的容易に見つけることができ、変光星の観測という別の楽しみを提供してくれます。

M11の存在は、1681年にドイツの天文学者ゴットフリート・キルヒによって初めて記録されました。当時の観測技術では、彼はこの天体を「不明瞭な光斑」と記述しています。これは、まだ個々の星に分離して見ることが難しかったためでしょう。

M11が個々の星の集まり、つまり星団であると初めて確認されたのは、それから半世紀以上後の1733年頃のことです。イギリスの天文学者ウィリアム・デラムが、より高性能な望遠鏡を用いてこの天体を観測し、多数の星が集まっていることを明らかにしました。

有名なフランスの天文学者シャルル・メシエも、彼の作成したメシエカタログにM11を含めています。彼の記述によれば、M11は「非常に多くの星が集まっている」と認識されていましたが、メシエ自身の使用した口径3フィート（約9cm）の望遠鏡では、「彗星のようで、星団の中には微かな光が混じり合っているようである」と記されています。この記述は、M11の密集度の高さゆえに、当時の標準的な望遠鏡では完全に個々の星に分離して捉えることが難しかったことを示しており、同時にメシエが慎重に天体を観察し、記録していた様子がうかがえます。

M11、野鴨星団は、その豊富な星の数、特徴的な形状、そして周辺の暗黒星雲や変光星といった多彩な要素によって、観測者を飽きさせない魅力的な天体です。たて座の夜空で、この壮大な星の集まりをぜひ探してみてください。

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