サフラン

サフラン：世界最高価のスパイスのすべて

サフラン (Crocus sativus) は、アヤメ科クロッカス属の多年草です。その乾燥しためしべは、世界で最も高価な香辛料として知られ、鮮やかな黄色と独特の風味で料理に彩りを添えます。イラン原産とされていますが、地中海地域の青銅器時代の壁画にもその存在が確認されており、古くから栽培されてきた歴史がうかがえます。

サフランとその他の植物との違い

薬用サフランと呼ばれる本種は、観賞用のクロッカスや、毒性を持つイヌサフランとは明確に区別する必要があります。イヌサフランは、アルカロイドのコルヒチンを含有し、誤食すると重篤な健康被害を招くため、注意が必要です。

サフランの形態と特徴

サフランは、最大20～30cmまで成長し、一株に最大4つの花を咲かせます。その鮮やかな深紅色の柱頭は、花柱とともに摘み取られ、乾燥させた後、香辛料や着色料として利用されます。この柱頭の収穫には、一キロあたり約400時間もの労働を必要とするとも言われており、その希少性と高価さを物語っています。遺伝的には単形クローンであるため、分布拡大は比較的遅く、ユーラシア全域を経て、北アフリカ、北アメリカ、オセアニアへと広まりました。日本では「番紅花」の他に、「咱夫藍」、「洎夫藍」、「洎夫蘭」といった表記も用いられています。

サフランの成分

サフランの主な成分は、α、β、γ-カロテン、クロシン（色素配糖体）、ピクロクロシン（無色の苦味配糖体）、精油（テルペン、テルペンアルコール、エステルなど）、クロセチンなどです。特にクロシンは水溶性で油には溶けず、香りの主成分はサフラナールです。

サフランの歴史

サフランの語源は、古フランス語、ラテン語、ペルシャ語などを経て現在の名称になったとする説が有力です。アラビア語由来とする説もありますが、確認はされていません。サフランの栽培は3000年以上前から行われており、原種と考えられるCrocus cartwrightianusから選別された変異体であるC. sativusが青銅器時代に確立したと考えられています。紀元前より、世界各地で香辛料、染料、香料、薬用として利用され、古代ギリシアでは王族専用の色彩として珍重された時代もありました。日本には江戸時代に薬として伝わり、本格的な栽培は明治時代後期から始まりました。現在、国内生産の約8～9割は、大分県竹田市で生産されています。

サフランの栽培

サフランは野生種がなく、人工的に繁殖されます。三倍体であるため、有性生殖による繁殖は難しく、根茎の分割によって増殖されます。クレタ島に自生するCrocus cartwrightianusが原種であると考えられていますが、他のクロッカス属植物が原種である可能性も示唆されています。サフランは、地中海沿岸地域の気候を好み、乾燥した夏と穏やかな冬が最適です。日当たりがよく、水はけの良い土壌を必要とし、高温多湿や病害虫にも注意が必要です。栽培期間中は、土壌の有機物含有量を高く保つことが重要であり、収穫時期は秋の短い期間に集中します。

サフランの等級と国際規格

サフランは、産地や品質によって等級が分けられます。国際標準化機構（ISO）のISO 3632認証規格では、クロシン、ピクロクロシン、サフラナールの成分含有量に基づいて、I類（最高級）、II類、III類（最下級）の3つの等級に分類されます。しかし、市場に出回るサフランの多くはISO認証を取得していないため、消費者は品質を判断するのに苦労することがあります。

スペイン産の「マンチャ級」サフランは、その呼び方に二つの意味があり、注意が必要です。一般用を指す場合と、スペイン国内の特定産地で生産された最高級品を指す場合があります。真に最高級のスペイン産サフランは「ラ・マンチャ」と呼ばれ、EUの原産地名称保護制度（PDO）認証を受けています。

サフランの偽造問題

サフランは高価であるため、古くから偽造が問題となっています。中世ヨーロッパでは、サフランの偽造は死刑に相当する重罪でした。現代においても、ターメリックやパプリカなどの粉末でかさ増ししたり、等級の異なるサフランを混ぜたりするといった偽造が頻繁に行われています。近年では、HPLC-DAD法やUHPLC-DAD-MS法などの分析技術を用いて、サフランの偽造を検出する手法が開発されています。

サフランの利用

サフランの乾燥しためしべは、独特の風味と鮮やかな黄色を活かして、様々な料理に使用されます。特に、パエリア、ブイヤベース、リゾットなど、地中海料理やアジア料理では欠かせないスパイスです。また、生[[薬]]としては「番紅花」と呼ばれ、鎮静、鎮痛、通経作用があるとされています。

サフランの安全性

通常の使用量であれば安全とされていますが、大量摂取は危険です。5グラム以上の摂取で重篤な副作用が出ることがあり、致死量は12～20グラムとされています。また、妊娠中・授乳中の方、特定の植物アレルギーを持つ方は、摂取に注意が必要です。一方で、近年ではサフランの色素成分であるクロシンに神経保護作用や抗炎症作用があることが明らかになり、健康への有益性も注目されています。

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