M12 (天体)

M12（NGC 6218）は、へびつかい座の領域に輝く美しい球状星団です。

この天体は、1764年にフランスの著名な天文学者シャルル・メシエによって発見され、彼の作成したカタログの12番目の天体として記録されました。しかし、当時の機材では個々の星を分離することが難しく、メシエはM12を星雲だと考え、「星を含まず、円形で微かに見える」と記しています。その正体が無数の星が集まった球状星団であることを初めて明らかにしたのは、それからおよそ20年後の1783年、イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルでした。

M12は、地球からは約16000光年離れた宇宙空間に位置し、その直径は約100光年にも及びます。他の多くの球状星団と比較すると、星の密集度が比較的低いという特徴を持っています。このため、かつては散開星団と球状星団の中間的な存在ではないか、とも考えられたことがあります。

M12を取り巻く星の並びは非常に個性的で、観測者の目を引きます。北側には家やロケットを思わせるような形状の星列が見られ、それがV字型に縁取られている様子が観察できます。その奥には、まるでロケットから噴き出される煙のように明るい星々が連なっており、風になびく吹き流しのように見えると形容されることもあります。こうしたユニークな見かけについて、19世紀の天文学者ウィリアム・ヘンリー・スミスは「星々の葬列」とたとえ、またウィリアム・パーソンズは「散在する触手」という言葉で表現しました。星団の中心部は比較的星がまばらですが、その周囲は様々な色の星々からなる集団に取り囲まれているのが観察できます。

M12は、比較的口径の小さな望遠鏡や双眼鏡でも楽しむことができる、観測に適した球状星団の一つです。特に興味深い点として、口径5cmクラスの双眼鏡（倍率7倍程度）を用いると、同じへびつかい座にある別の球状星団、M10と同一の視野に捉えることができるという特性があります。このように、二つの球状星団が同時に見えるペアは、メシエカタログに掲載されている110個の天体の中でこの組み合わせだけです。さらに、この二つの星団は、視覚的に近くに見えるだけでなく、実際にも約3700光年しか離れておらず、宇宙空間においては事実上の「隣人」ともいえる近接した位置関係にあります。

より詳細な構造を観察するには、口径8cm程度の望遠鏡があれば、星団周辺の微かな星々が見え始めます。さらに口径15cmクラスの望遠鏡を使用し、観測条件が整えば、星団の中心部まで個々の星に分解してその詳細を観察することが可能です。注意深く見ると、星団全体の形状がわずかにいびつであることや、内部に星がまばらで薄暗い領域があることにも気づかされるでしょう。

M10とM12は、大きさや明るさが似ているにもかかわらず、星の密集度といったタイプが異なる点が非常に興味深く、両者を対比して観察することは球状星団の多様性を知る上で良い経験となるでしょう。メシエが見出したこのへびつかい座の星の集まりは、その発見の歴史、個性的な形状、そしてM10とのユニークな関係性によって、多くの観測者を魅了し続けています。

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