M12 155mm自走加農砲

M12 155mm自走加農砲

M12 155mm自走加農砲（155mm GMC M12）は、第二次世界大戦中にアメリカ陸軍が開発した自走砲です。アメリカ軍兵士からは、フランス戦線において「キングコング」の愛称で呼ばれていました。

概要

M12は、機甲部隊に随伴し、重砲による迅速かつ緊密な支援を行うために開発されました。装甲車両に大口径の野戦砲を搭載した、初期の自走砲兵車両の一つです。開発当初は訓練用または予備兵器として保管されていましたが、1944年のフランス戦線に実戦投入され、予想外の活躍を見せました。この活躍により、アメリカ軍は「大口径自走砲」という兵器の価値を再認識し、その後のアメリカ製大型自走砲の原型となりました。

第二次世界大戦を通じて使用されましたが、1945年には後継のM40 GMCが完成し、戦後は早期に退役しました。

開発の背景

アメリカ陸軍は、第一次世界大戦の経験から、火砲、特に大型重砲の馬による牽引と人力による展開に限界があると考え、他国に先駆けて大型火砲の動力化（自走化）を構想していました。

しかし、機動戦を重視する機甲部隊は、重砲を機甲部隊に追随させることに懐疑的でした。また、砲兵部隊自身も、高価な自走砲兵車両の導入には消極的でした。それでも、陸軍の方針として近代化と機械化を進めることが重要とされ、自走砲の開発計画は進行しました。主砲は6インチ（約15cm）クラスの重砲と定められ、最終的にカノン砲が選定され、大口径カノン砲を搭載した自走砲兵車両の開発が本格的に始まりました。開発期間の短縮と予算の節約のため、搭載砲は既存の砲を流用し、車体は開発中の新型戦車（後のM3中戦車）と共通とすることが決定されました。

開発・運用

1941年6月からロックアイランド工廠で開発が始まり、1942年2月に試作車が完成し、T6の仮名称が与えられました。試験結果は良好でしたが、機甲部隊は採用に消極的でした。T6は細部を改修後、1942年8月にM12 GMCとして制式採用され、プレスド・スチール・カー社によって100両が製造されました。

M12は、配備先となる機甲部隊からの要求が低く、アメリカが参戦しヨーロッパへの兵力派遣を決定した段階では、訓練車両として使用されるか、倉庫で保管されていました。

1944年2月、連合軍の大陸反攻を前に、74両のM12自走砲がオーバーホールと作戦運用準備のための改装を受け、砲防盾の装着とエンジンの修正が行われました。

M12は、採用から2年後の1944年に初めて実戦投入され、ノルマンディー上陸作戦の直後から実戦に参加し、予想外の活躍を見せました。間接射撃を主として設計されていましたが、強固な防御施設の攻撃の際には直接射撃任務にも投入されました。サン＝ロー攻防戦では、ドイツ兵が立てこもる陣地や建造物に直接射撃を加え、その威力から兵士たちに「キングコング」と呼ばれました。

1944年から1945年の終戦まで、M12は各作戦で成功裡に運用されました。旧式の砲を転用して開発された暫定的な兵器としては非常に成功した存在でしたが、実戦投入時には搭載砲・車体共に旧式であり、不十分な点も多くありました。アメリカ軍の主力自走砲はM7自走砲であり、M12の投入局面は限定されていました。生産も100両のみで追加生産は行われず、後継のM40 155mm自走砲が配備された後は早期に姿を消しました。

M12はアメリカ軍以外では使用されておらず、戦中、戦後共に諸外国への供与もされていません。

構造

M12はM3中戦車の車体部を用い、新規に開発された車体上部に余剰の旧式カノン砲を搭載したものです。

搭載砲には、M1917、M1917A1、M1918M1の38.2口径155mmカノン砲が選定されました。これらは第一次世界大戦のフランス製火砲GPF 155mmカノン砲から派生したもので、ほぼ同一構造でした。

主砲はM4砲架を介して搭載され、指向範囲は左右各15度、俯仰角は－3～＋30度でした。分離装薬式の弾薬を用い、最大射程は18,379mでした。自走砲車本体には10発分の弾頭と装薬しか積載されませんでした。

砲左側に小型の防盾が後付で備えられており、車体前面上部には走行時に砲身を固定するための折畳式固定架が装備されていました。

機関室はM3中戦車の車体後部から車体中央部へ移され、操縦手席はM3よりもやや後方になりました。操縦区画は車内にあって装甲化され、密閉区画とされていましたが、主砲の配置された車体後部の砲兵員区画は露天式でした。車体後面にはブルドーザーのブレードに似た駐鋤が装備されており、射撃時に展開して砲の反動を吸収しました。

M12の大型砲と駐鋤という配置方式は、重量級自走砲の定型として広く踏襲されました。

派生型

M30 弾薬運搬車

M12に搭載できる弾薬は10発のみであり、砲員の全てを乗車させることが不可能でした。そのため、乗車しきれない砲員と予備の弾薬を輸送するための車両が開発され、M30弾薬運搬車として制式化されました。

車体構成はM12と同様ですが、砲と駐鋤を装備せず、砲員のための座席と予備弾薬用ラックが増設されていました。155mm砲弾薬40発を搭載し、自衛用に車体後部にM2重機関銃用のリングマウントを装備しました。

M30はM12に合わせて100両が生産され、M12 1両につきM30 1両のペアで運用されました。M12と同様にオーバーホールと作戦運用準備のための改装を受け、第二次世界大戦を通じて使用されました。

第二次世界大戦後、M12は後継のM40自走砲に代換され退役しましたが、M30の一部はM40の随伴弾薬車として用いられました。その他、少数が支援車両として使用されました。

現存車両

オクラホマ州ロートンにあるフォート・シルのアメリカ陸軍野戦砲兵博物館に、現存する唯一のM12自走砲が展示されています。

登場作品

ゲーム
World of Tanks - アメリカ自走砲M12として開発可能。
コール オブ デューティ ファイネストアワー - アメリカ軍の自走砲として登場。

参考文献

TM 9-2300 military vehicles
TM 9-751 operators
『Janes World War II Tanks and Fighting Vehicles:The Complete Guide』（ISBN 978-0007112289）Leland Ness. Collins 2002
『戦車メカニズム図鑑』（ISBN 978-4876871797）上田信：著 グランプリ出版 1997年
『M3リー＆グラント中戦車1941‐1945 (オスプレイ・ミリタリー・シリーズ - 世界の戦車イラストレイテッド 36) 』（ISBN 978-4499229586）スティーブン・ザロガ／ヒュー・ジョンソン：著、平田光夫：訳 大日本絵画 2008年

関連項目

M40 155mm自走加農砲 - M4中戦車後期型のコンポーネントを用いて開発された後継車両。
自走砲一覧

外部リンク

AFV Database
Cargo Carrier M30

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