M7自走砲

M7自走砲：第二次世界大戦で活躍したアメリカの自走砲

M7自走砲は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国で開発された自走砲です。愛称はプリースト（Priest）で、その名の通り、機関銃座が教会の説教台に似ていることからイギリス軍によって名付けられました。

開発の背景

アメリカ陸軍兵器局は、砲兵の自走化を目指し、まずM3ハーフトラックに75mm野砲を搭載したM3A1自走75mm砲を製造しました。しかし、運用結果から半装軌式のハーフトラックよりも完全装軌式の車両が望ましいとの結論に至り、M3中戦車の車体に105mm榴弾砲を搭載したT32自走砲の開発を開始しました。1942年初めに試作車が完成し、アバディーン性能試験場で試験が行われました。その結果、エンジンの配置により砲の仰角が不足していること、対空兵器が不備であることが指摘されました。これを受けて、車体右前方に12.7mm重機関銃M2が装備されました。

制式採用と改良

T32は、1942年4月にM7自走砲として制式採用され、同年に2,028両が生産されました。1944年3月からは、車体がM3中戦車からM4A3中戦車に変更され、M7B1と呼ばれるようになりました。さらにその後、105mm榴弾砲の装備位置を一段高くし、最大仰角を35度から65度まで引き上げたM7B2が生産されました。

実戦での活躍

当初、M7自走砲はアメリカ軍向けにのみ生産されていましたが、1942年9月には90両がイギリス第8軍にレンドリース供与されました。初の実戦参加は1942年10月の第二次エル・アラメイン会戦で、この戦いでの性能を見たイギリス軍は、M7の更なる供与を要求し、終戦までに数百両が供与されました。

一方、アメリカ軍での本格的な実戦投入は遅れ、1944年6月のノルマンディー上陸作戦以降、陸軍機甲師団麾下の自走野砲大隊に配備され活躍しました。M7は、元々が中戦車であったことから、高い機動性と広い車内スペースを有しており、兵士たちから歓迎されました。また、多くの部品がM3およびM4中戦車と共通であり、使用する弾薬も野砲と同じであったため、整備・補給が容易である点も評価されました。

大戦終結後も、M7は米軍の制式装備として残り、朝鮮戦争にも参加しました。その後、余剰となった車両の一部は、M4中戦車とその改良型を大量運用していたイスラエル軍に供与され、中東戦争でも活躍しました。

各バリエーション

M7: M3中戦車の車体に105mm榴弾砲M2を装備したタイプ。エンジンシャフトと砲尾の干渉により、最大仰角は35度に制限。初期生産車は砲弾ケースが車体からはみ出し、誘爆の危険があったが、途中から起倒式の装甲板が装備された。3,314両生産。
M7B1: 車体をM3中戦車からM4A3中戦車に変更したタイプ。弾薬ケースの誘爆の危険も改善された。826両生産。
M7B2: M7B1の榴弾砲の装備位置を一段高くし、最大仰角を65度まで引き上げたタイプ。機関銃座も嵩上げされた。127両生産。
M7（イスラエル軍仕様）: イスラエル軍で使用されたM7は、M4中戦車系のサスペンションを装着しているためM7B1と分類されることもあるが、車体リアパネル周辺の形状はM3中戦車を使用したM7と同じである。エンジンはM4A3のフォード製ガソリンエンジンではなく、M3/M4/M4A1系のコンチネンタル製ガソリンエンジンが使用され、エンジンデッキ形状はM4/M4A1と同じ物になっている。車体前部にトラベルロックが増設されているなど、細部にも改造が施されている。

派生型

セクストン 25ポンド自走砲: イギリス軍が、ラム巡航戦車およびグリズリー巡航戦車の車体にQF 25ポンド砲を搭載した自走榴弾砲。カナダのモントリオール・ロコモティブで製造された。M7の代替としてヨーロッパ戦線で使用された。
カンガルー装甲兵員輸送車: セクストンの配備により余剰となったM7の砲部分を取り外し、装甲兵員輸送車としたもの。

登場作品

M7自走砲は、映画やテレビドラマ、小説、漫画、ゲームなど、様々なメディアに登場しています。

映画: 『コマンドー』に、隠匿されていた兵器として登場。
テレビドラマ: 『ラット・パトロール』に、ドイツ軍の突撃砲役として登場。オープントップではなく、上面装甲付きに改造されている。
小説: 『大日本帝国欧州電撃作戦』に、日本軍に配備された兵器として登場。
漫画: 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に、大原部長が使用する兵器として登場。
ゲーム: 『World of Tanks』、『バトルフィールド1942』、『トータル・タンク・シミュレーター』など、様々なゲームに登場。