M31 戦車回収車

M31 戦車回収車：戦場の救護

M31戦車回収車（Tank Recovery Vehicle, TRV）は、アメリカ陸軍が第二次世界大戦中に開発した装甲回収車です。M3中戦車の車体をベースに、戦場で故障または損傷した戦車の回収と応急修理を目的として設計されました。時にはM31 ARV（Armored Recovery Vehicle）とも呼ばれます。

この車両は、アメリカ軍だけでなく、イギリス連邦諸国にも供給され、広範囲に運用されました。特に、イギリス軍や英連邦諸国では、M3中戦車を独自に改造してM31相当の装甲回収車を製造した例もあります。

また、M31から回収装備を撤去し、重砲牽引用のM33砲牽引車（M33 Prime Mover）に改造された車両も存在します。

開発の経緯

M31の開発は、M4中戦車を主力とする機甲部隊の支援車両として、1942年にG-169の計画名称で始まりました。M4中戦車の生産に影響を与えないよう、M4の前身であるM3中戦車が利用されました。M3中戦車は、M4の配備開始後は余剰となる見込みであり、戦闘室と砲塔以外はM4と共通であるため、最適な選択肢と判断されました。

試作車T2は1942年9月に完成し、試験の結果、実用的な性能が確認されました。これにより、750両の量産が決定し、ボールドウィン機関車製造所によってM3中戦車を改造する形で生産が開始されました。その後、エンジンの異なるM3A3やM3A5を改造した車両、M3A3規格の車体を用いた新造車が追加発注されました。

1943年8月には、M31として制式化され、最終的には1944年1月までに約800両が製造されました。そのうち約100両は、M33装甲牽引車に改造されています。

配備と運用

M31は、1943年にチュニジアに駐留していた第1機甲師団への配備を皮切りに、アメリカ軍の機甲部隊で運用が開始されました。また、レンドリース法に基づき、ソ連にもM3中戦車のディーゼルエンジン型と共にM31Bが115両供与されています。

M3中戦車自体は1943年にはアメリカ軍の第一線から退きましたが、M31は引き続き使用され、1945年の終戦までその役割を果たしました。戦後は、M4中戦車の回収車型であるM32に更新される形で急速に退役しましたが、現場ではM31やM33の継続的な装備を望む声も多くありました。

特徴

M31は、M3中戦車の車体から75mm砲と砲塔の37mm砲を撤去し、車体内部にウィンチを増設、砲塔の砲架部にブームクレーンを装備しています。車体前後の固定金具で支持脚を固定します。車体の各所には、工具箱や備品箱が追加され、予備部品が搭載されています。

ウィンチは最大27.22トンの牽引力を発揮し、クレーンは支持脚なしで4,536kg、支持脚ありで5,443kgの重量物を持ち上げることができます。支持脚を地面に固定した場合は、最大13.61トンまで吊り上げ可能です。また、車体前後に牽引用のピントルフックを備え、最大牽引力は30.84トンです。

オリジナルのM3にあった車長用展望塔兼機関銃塔は廃止され、グラント中戦車と同じ両開き式のハッチを備えた砲塔となっています。武装は基本的に搭載されていませんが、車長用ハッチに機関銃マウントを備え、必要に応じて7.62mm機関銃M1919を装着できました。車内にはM1919機関銃2丁と予備弾薬2,000発を搭載可能です。

回収装備以外の部分はM3中戦車とほぼ同じですが、車体側面のハッチが溶接で塞がれている点や、M4中戦車の部品が使用されている車両も存在します。

各型と派生型

T2: 試作型。
M31(Grant ARV II): 量産型。コンチネンタル社製R975-C1エンジン搭載。
M31B1: ディーゼルエンジン搭載型。車体は溶接接合。
M31B2: ディーゼルエンジン搭載型。車体はリベット接合。
* M33 砲牽引車(M33 PrimeMover): M31から砲塔とクレーンを撤去し、装甲牽引車に改造した型。

類似車両

イギリス軍に供給されたM3中戦車を装甲回収車に改造した「Grant ARV」や、オーストラリア軍が独自に開発した「ARV(Aust)」などがあります。

その後

M31は退役後、民間に払い下げられ、クレーン車や牽引車として利用されました。現在でも博物館に保存されている車両が存在しますが、クレーンが失われている場合もあります。

また、M31やM33の払い下げ車両を、他の装甲車両のスクラップやレプリカパーツを用いてM3中戦車に似せて復元した車両も存在し、ヒストリーイベントなどでM3として展示されることがあります。

M31は、戦場で傷ついた戦車を救い、部隊の作戦遂行を支えた重要な車両でした。

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