M35 (天体)

M35（NGC 2168）

ふたご座の領域に輝くM35（正式名称NGC 2168）は、多数の恒星が比較的まばらに集まる散開星団として、その見事な姿で観測者を魅了する天体の一つです。夜空を肉眼で注意深く見ると、この星団は淡く広がった光の塊として捉えられ、あたかも天の川が濃くなった場所や、遠くにある銀河の一部のように見えます。双眼鏡を用いて観測すると、肉眼では捉えきれなかった星の集まりが、丸みを帯びた星雲状の塊として浮かび上がってきます。その光の中には、個々の明るい星がいくつか識別できるようになり、星団としての姿が少しずつ明らかになってきます。

この星団を彩る特徴の一つに、その北東側に位置する目立つ二重星があります。このペアのうち主星は赤みがかった色をしており、青白い星が多いM35のメンバー星の中にあって、ひときわ目を引きつけるアクセントとなっています。

M35の近く、写真などでよく同じ視野に写り込むことのあるNGC 2158もまた散開星団ですが、M35とは対照的な特徴を持っています。NGC 2158はM35に比べて非常に遠く、地球からは約5倍もの距離に位置しています。さらに、その年齢もM35よりはるかに古く、推定で約10倍もの年月を経ています。このような違いは、見かけの姿にも表れており、NGC 2158は古くて遠いゆえに星々が密集して見え、かつてはより密度の高い天体である球状星団に誤って分類された歴史も持っています。一方、M35は比較的若く、地球からの距離も近いため、個々の星が明るく輝き、星団全体の構造がよりはっきりと分離して見えます。この二つの星団が同じ視野に捉えられる場合、年齢や距離、構造の違いによる対比を観測できることは、天体観測の興味深い一面と言えるでしょう。

この美しい星団M35の存在は、古くから知られていました。ヨーロッパで初めて体系的に観測・記録を行ったのは、1745年から1746年にかけてフランスの天文学者ジャン＝フィリップ・ロワ・ド・シェゾーであるとされています。シェゾーは自身の観測記録の中で、M35を「ふたご座の北の足の上に見える星団」と記述しています。また、これとは独立して、イギリスの天文学者ジョン・ベヴィスも1750年より前にこの星団を発見していたことがわかっています。

後に、有名な天文学者シャルル・メシエは自身の作成した星雲・星団カタログにM35を登録しました。1764年に彼が記した記録には、「カストール（ふたご座α星）の左足に位置する、非常に小さな星々の集まり」とあります。メシエが使用した望遠鏡では、個々の星を分離して見るのが難しく、このように表現されたと考えられます。現在、M35はメシエカタログの35番目の天体として、多くの人々に知られています。

M35は、ふたご座の中でも比較的簡単に導入できる位置にあり、手軽な観測機材でも十分に楽しめる対象です。肉眼での淡い輝き、双眼鏡での星雲状の広がりというように、観測方法によって異なる表情を見せるこの散開星団は、夜空の美しい宝石の一つと言えるでしょう。

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