M3中戦車

M3中戦車：繋ぎの時代の異形戦車

M3中戦車は、第二次世界大戦初期にアメリカ合衆国で開発・製造された中戦車です。アメリカ陸軍だけでなく、イギリス、オーストラリア、ソビエト連邦など、連合国各国に供与されました。その独特な外観と、M4中戦車が登場するまでの繋ぎとしての役割が特徴です。

開発の背景

1939年の第二次世界大戦勃発後、ドイツ軍のIII号戦車やIV号戦車といった強力な戦車が登場し、アメリカ軍のM2中戦車では対抗できないことが明らかになりました。アメリカ陸軍は本格的な機甲部隊を発足させる計画を開始し、イギリス軍の戦訓を参考に、英米共同で使用することを前提とした新型戦車の開発を目指しました。

しかし、当時アメリカには75mm砲を搭載可能な大型砲塔を設計する経験が不足していました。そこで、大型砲塔の開発までの繋ぎとして、車体前面に75mm砲を搭載する設計が採用され、M3中戦車が誕生しました。

特徴的な構造

M3中戦車の最大の特徴は、車体右側の張り出し部に75mm砲を搭載している点です。これにより、砲塔には37mm砲を搭載し、合計2種類の砲を備えるという、他に類を見ない構造となりました。また、車体前部には機銃が2挺装備され、砲塔上には車長用銃塔が設けられました。乗員は7名と多く、各砲の操作や無線通信など、多くの役割を分担する必要がありました。

各国での運用

M3中戦車は、北アフリカ戦線やイタリア戦線、独ソ戦、ビルマ戦線など、様々な戦線に投入されました。イギリス軍は、車載無線機を搭載するために砲塔を改修した「グラント」を運用しました。ソ連軍は、その車高の高さから「火の見櫓」や「二階建て」などとあだ名しました。

しかし、M3中戦車はあくまで繋ぎの戦車であり、M4中戦車の登場とともに第一線から退いていきました。その後は訓練用や、M31戦車回収車、M33装軌式牽引車などの派生型として活用されました。

M3中戦車の評価

M3中戦車は、火力と装甲、そして機関と走行装置の信頼性においては、当時の枢軸軍戦車に勝っていました。しかし、車高が高く被弾しやすい、75mm砲の射角が限られるなど、欠点も多くありました。ソ連軍では、ガソリンエンジンの燃費の悪さや、被弾時の炎上しやすさが問題視されました。

ストップギャップとしての役割

M3中戦車は、多くの欠点を抱えながらも、M4中戦車が登場するまでの間、連合国の戦力維持に大きく貢献しました。その独特な外観と、繋ぎの時代の戦車としての役割は、戦車開発史にその名を刻んでいます。

派生型

M31戦車回収車: 武装を撤去し、クレーンとウィンチを装備した戦車回収車。
M33装軌式牽引車: M31より砲塔とクレーンを撤去した重砲牽引車。
M7自走砲（プリースト）: M3の車体に105mm榴弾砲を搭載した自走砲。
M12自走砲: M3の車体に155mmカノン砲を搭載した自走砲。

登場作品

M3中戦車はその特徴的な外観から、多くの映画やゲームに登場しています。

映画: 『サハラ戦車隊』、『デザート・ストーム/新・サハラ戦車隊』
ゲーム: 『War Thunder』、『World of Tanks』

もう一度検索