M68 (天体)

M68（NGC 4590）

うみへび座の天球に輝く球状星団の一つが、メシエカタログの68番、M68（NGC 4590）です。この天体は、数多くの星々が球状に密集して集まった壮大な恒星系であり、地球からは約3万3000光年の彼方に位置していると推定されています。球状星団としては、比較的中心部の星の集中度が低く、まばらな部類に入るとされています。

見え方とその特徴

M68を観測する際、その見え方は用いる望遠鏡の口径によって大きく異なります。双眼鏡を用いた場合、M68は小さく丸い、ぼんやりとした光の塊、すなわち星雲状に見えるでしょう。個々の星を分解して捉えることは難しい段階です。

口径が8cm程度の小口径望遠鏡になると、星団の周囲にかすかな星々が見え始め、その存在がより明確になります。さらに口径10cmクラスの望遠鏡を使うと、星団の中心部が明るく、周辺部に向かうにつれて淡くなっていく様子が捉えられます。このクラスの望遠鏡でも、中心部を構成する星一つ一つを明確に見分けるのは困難ですが、周辺部には星がばらばらに散らばっている様子が確認できます。19世紀の天文学者ウィリアム・レスセルは、彼の観測記録の中で、M68の中心が明るく、周辺が拡散している様子を描写し、特に西南方向に約30分離れた位置にある5等星が黄色みを帯びて見えることに言及しています。

M68は、球状星団としては星の密度が比較的低い性質を持つため、より大口径の望遠鏡を用いることで、その姿は劇的に変化します。口径20cmクラスの望遠鏡であれば、星団の周辺部は完全に個々の星に分解されて見え、きらめきが広がります。さらに口径30cm以上の大口径望遠鏡では、星団の中心部までが個々の星に分解され、無数の星々が織りなす微細な構造を詳細に観測することが可能になります。このように、M68は観測装置の性能向上によって、その本来の姿をより鮮明に現す天体と言えます。

観測史

M68は、1780年にフランスの天文学者シャルル・メシエによって発見されました。しかし、後の記録において混乱が生じ、ウィリアム・ヘンリー・スミスはピエール・メシャンの発見として誤って記録してしまいました。この誤りは、20世紀に入って天文学者ヘレン・ソーヤー・ホッグの研究によって訂正され、メシエが真の発見者であることが確認されています。

メシエは発見時の記録に、「うみへび座にある、星を含まない非常に淡い星雲で、望遠鏡で捉えるのは大変難しい。近くに6等星がある」と記しています。この記述からは、当時の小口径望遠鏡では個々の星を分解して見ることがいかに困難であったかが伺えます。

その後、観測技術の進歩に伴い、M68の正体はより明確になっていきます。1786年、ウィリアム・ハーシェルはM68を観測し、「多数の微かな星々に分解され、非常に密集しているため、大部分の星が直径3～4分角の範囲に混じり合っている」と記録しました。これは、メシエの時代の観測より一歩進んで、M68が星の集まりであることを示唆しています。

ジョン・ハーシェルは、M68を「球状星団」として明確に認識し、「不正円形であり、中央部に向かって次第に輝きが増している。個々の星ははっきりと分離でき、12等星で構成されている。周辺部は乱雑でざらついた印象だ」と記述しています。また、ウィリアム・ウェップもM68を「よく分解される球状星団」と評価し、構成星が12等星であること、そしてその中には赤い星が一つ含まれていることにも言及しています。これらの観測記録は、時代とともに望遠鏡の分解能が向上し、M68の姿が星の集まりとして詳細に捉えられるようになった過程を示しています。

このように、M68は発見から現代に至るまで、多くの天文学者によって観測され、その見かけや構造に関する理解が深められてきました。比較的まばらな球状星団として、小口径から大口径まで、様々な望遠鏡で異なる姿を楽しむことができる興味深い天体です。

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