M89 (天体)

M89は、天文学上の分類符号NGC 4552としても知られる天体で、おとめ座の方向に見える楕円銀河です。この銀河は、多数の銀河が集まる広大な構造であるおとめ座銀河団に属しています。

観測における見え方

この銀河は、比較的小型の望遠鏡でも観測可能です。例えば、口径5cm程度の望遠鏡でも、空の状態が良ければその姿を確認できます。口径10cmクラスになると、星像がわずかにぼやけて見えるような、星雲状の天体として捉えられます。特におとめ座銀河団の中心部付近では、近傍のM90銀河と同一視野内に捉えることができ、両者の形状の違いを比較して楽しむことができます。さらに大きな口径20cmクラスの望遠鏡を使用すると、典型的な楕円銀河としての特徴がよりはっきりと見えてきます。

銀河の物理的特徴

M89は、視覚的にはほぼ円形に見えます。しかし、これはM89の実際の楕円体の長軸が、私たちの銀河系から見た方向とほぼ一致しているために、見かけ上球状に見えているだけである可能性も指摘されています。つまり、真の形状が円形なのか、あるいは向きによって円形に見える楕円体なのかは、現在でも完全には判別されていません。この銀河は、比較的弱いながらも電波を放出していることが観測されています。また、銀河の外層にあるガスが、特に北西の方向へジェットのように噴出している構造が見られます。M89のこのような特徴や位置から、同じくおとめ座銀河団に属するM86銀河のように、銀河団の中心部に位置する巨大な重力源に強く引き寄せられている途中にあるのではないか、という説も考えられています。

発見と過去の観測記録

M89は、1781年3月18日にフランスの天文学者シャルル・メシエによって発見されました。この夜、メシエはM89を含む合計8つの銀河と、球状星団M92という多くの天体を立て続けに発見しています。

メシエ自身はM89について、「星を含まない星雲で、非常に淡く青みがかっており、見るのが難しい」と記録しています。しかし、その後の観測者たちは異なる印象を抱きました。イギリスの天文学者ジョン・ハーシェルは、M89を「かなり明るく、大きくて円形であり、中央に向かって次第に明るさを増している」と描写しました。また、ドイツの天文学者ハインリヒ・ダレストは「非常に美しく、完全な円形に見え、その直径は約45秒角ほど。中心部の明るさは10等級の星に匹敵するほどだ」と詳細に記しています。さらに、フランスの天文学者カミーユ・フラマリオンは、「やや星雲状に見えるが、M87ほど大きくも明るくもなく、中心部が明るい」と述べており、観測者や使用した望遠鏡によって見え方の印象が異なっていたことが伺えます。

これらの歴史的な記録は、天体観測技術の進歩とともに、M89のような遠方の銀河に対する理解が深まっていった過程を示しています。

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