M90 (天体)

M90（NGC 4569）

おとめ座に位置するM90（NGC 4569）は、形態分類上は渦巻銀河に分類され、広大なおとめ座銀河団の一員をなしています。この銀河の特異な点の一つは、多くの銀河が宇宙膨張によって私たちから遠ざかっている中、M90は銀河系に対して接近運動を示している数少ない銀河の一つであることです。

観測による見え方

M90は、同じくおとめ座銀河団に属する別の銀河M89と比較的近い位置にあり、天球上で両者は約40分角離れているため、しばしば同一視野で観測されます。資料によれば、M89とM90の間には、ジグザグ状に連なる微かな星々が見られるとされています。

観測に用いる機材によって、M90の見え方は大きく変化します。

双眼鏡：残念ながら、双眼鏡ではM90は点にしか見えず、星と区別するのは困難です。
口径5cm程度の望遠鏡：このクラスの望遠鏡を使うと、ようやく星ではない、ぼんやりとした光の染みとして捉えることができます。
口径8cm程度の望遠鏡：口径が大きくなると、中央部の米粒のように明るい部分（中心核）と、その周囲を取り巻く淡い光の広がり（光芒）が識別できるようになります。
口径10cm程度の望遠鏡：M89とM90を同一視野で捉えることができるこの口径では、二つの銀河を区別できるようになります。M90はいくぶん潰れた楕円形に見えるのに対し、M89はより丸い円形に見えるため、その形状の違いで容易に識別が可能です。
* 口径30cmクラスの大型望遠鏡：十分な口径を持つ望遠鏡を用いると、銀河の腕構造を示唆するような、光を遮る暗黒帯といったより微細な構造も捉えることが可能になります。

観測史

M90は、1781年3月18日にフランスの天文学者シャルル・メシエによって発見されました。この夜、メシエは有名な球状星団M92のほか、実に8つの銀河を立て続けに発見しており、M90はその発見リストの一つです。

メシエ自身はM90について、「星を含まない星雲であり、M89よりも淡い」と、簡潔かつ他の天体との比較を交えて記録しています。

その後の観測者たちもM90を詳細に調べました。イギリスの天文学者ジョン・ハーシェルは、「かなり大きく、中央が明るく、はっきりとした核を持っている」と表現しています。

ドイツの天文学者ハインリヒ・ダレストは、M90の見え方についてより詳しく記述を残しています。彼は当初、「実に素晴らしい星雲だ。中心部は楕円形で、7分×90秒角の範囲が輝いており、その中に11等星が煌めいている。核は真の星であり、他に輝く点は見当たらない」と記しました。これは、中心核が非常に明るく、まるで星のように見えたことを示唆しています。しかし、1864年の追記では、彼は記述を改めています。「非常に大きな楕円形の星雲で、およそ7分×2分の広がりを持ち、12等級の星に囲まれている。その核は、星雲を透過して輝く星のように見える」としており、星雲全体のサイズ認識や、中心核の見え方に対する表現に変化が見られます。この時代、観測技術の向上に伴い、天体の見え方に対する解釈も進化していった様子が伺えます。

M90は、おとめ座銀河団の中にあって、私たちの銀河系に接近しているという独特の運動を持ち、その視覚的な特徴も観測口径によって様々に変化するため、アマチュア・プロを問わず、多くの天文学者にとって興味深い観測対象となっています。特にM89との対比は、小型望遠鏡でも楽しめる魅力の一つと言えるでしょう。

もう一度検索