M91 (天体)

M91、またはNGC 4548として知られるこの天体は、かみのけ座の領域に位置する美しい棒状渦巻銀河です。メシエカタログに91番目の天体として登録されていますが、その歴史には独特の経緯があります。発見者であるフランスの天文学者シャルル・メシエが、その位置を記録する際に座標の計算に誤りがあったため、長らく天文学者たちにとって見つけられない「失われたメシエ天体」の一つとされてきました。

発見の経緯

M91は、1781年3月18日にシャルル・メシエによって初めて観測されました。この晩は、メシエにとって非常に実りある夜であり、彼は球状星団M92を含む9つの新しい天体を発見しています。M91はそのうちの一つでした。メシエは自身のカタログに記した観測メモの中で、この天体を「おとめ座にある星を含まない星雲。M90のすぐ西に位置し、M90よりも淡い」と記述しています。この記述自体は正確な観測に基づいたものでしたが、その後の座標記録に問題が生じました。

メシエによる誤り

M91が「失われた天体」となった直接的な原因は、メシエがその位置を計算する際に犯した座標の計算ミスにあります。メシエは、当時すでにカタログに記載されていた別の天体、具体的にはM58を基準点としてM91の位置を測ろうとしました。ところが、記録する段階で誤ってM89という別の天体を基準にしてしまったのです。この些細ながらも致命的な間違いにより、メシエカタログに記録されたM91の座標は実際の位置から大きくずれてしまいました。

失われた天体の捜索

メシエの誤った座標情報に基づいてM91を捜索した後の天文学者たちは、カタログ通りの位置にこの天体を見つけることができませんでした。これにより、M91は長期間にわたりその存在が疑問視されるか、「失われた」天体として扱われることになります。M91がNGC 4548として正式に同定されるまでの間、「失われた天体」M91の正体については、いくつかの説が提唱されていました。優れた彗星発見者としても知られていたメシエが、実は銀河ではなく一時的な現象である彗星と見間違えたのではないかとする説、あるいはM58という別のメシエ天体を二重に数えてしまったのではないかとする説、さらにはNGC 4571という別の銀河こそがM91であるとする説などが、可能性として議論されていました。

再同定

メシエの座標計算における間違いが指摘され、M91の真の姿が明らかになったのは、発見からおよそ200年近くが経過した後のことです。1969年、テキサス州フォートワース在住のアマチュア天文家ウィリアム・C・ウィリアムズ氏が、メシエが残した観測記録と自身の観測結果を詳細に照合し、メシエが座標の計算にM89を誤って使用したことによる間違いを発見しました。この発見により、現在では、NGC 4548として独立してカタログに記載されていた銀河こそが、シャルル・メシエがかつてM91として観測した天体であるという説が広く受け入れられています。興味深いことに、このNGC 4548自体は、メシエによる観測から遅れること約3年、1784年4月8日にイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルによって独立して発見され、カタログに記録されていました。

今日、M91はメシエカタログの中で、その歴史的経緯から特に語られることの多い天体の一つです。メシエのカタログの精度を裏付けるとともに、小さな誤りが天体観測の歴史に大きな影響を与えうることを示す例として、天文学の物語の中に位置づけられています。かみのけ座の中で、今もなおその美しい渦巻腕と中心の棒状構造を見せています。

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