MAKI VI

MAKI VI

1974年12月20日にリリースされた浅川マキのアルバム『MAKI VI（マキ シックス）』は、彼女のディスコグラフィにおいて通算6作目、ライブ盤としては2作目として位置づけられる作品です。東芝EMIのエキスプレス・レーベル（現在のユニバーサルミュージック合同会社内のEMIレコーズ・ジャパンレーベルに相当）から発表されました。

リリース背景

本作は、前作『裏窓』から約1年ぶりに届けられました。リリース当時の告知には「緊急発売」と銘打たれていたとされており、その背景には、当初1974年6月に予定されていたアルバムの発売が延期され、年末に改めて本作が発表されたという経緯があります。こうした発売に至るまでの動きも、作品に独特の雰囲気を与えています。

音楽性と参加ミュージシャン

『MAKI VI』の最も注目すべき点は、日本のジャズ界を代表する面々が演奏に参加していることです。具体的には、当時精力的に活動していた山下洋輔トリオ（山下洋輔、森山威男、坂田明）に加え、ベーシストの稲葉国光などが名を連ねています。浅川マキのブルースフィーリング溢れるボーカルと、ジャズミュージシャンたちの即興性が豊かな演奏が見事に融合し、スリリングかつ深遠な音楽空間を創り出しています。

ライブ音源の性質を巡る謎

本作は一般的にライブアルバムとして認識されていますが、オリジナル盤には録音場所や「ライブ録音」であることの明確な記述が見当たりません。かつて存在した浅川マキの公式ウェブサイトや、山下洋輔の公式ページにはライブ録音であるとの記述があったとされますが、公式なクレジットがない点は興味深い事実です。さらに、1978年に発表されたライブアルバム『浅川マキ・ライヴ・夜』のインナーノーツにおいて、浅川本人が「完全なライヴレコードは七年ぶり」と記していることから、この『MAKI VI』が何らかの編集やオーバーダビングを経て制作された可能性も指摘されています。もし「完全なライヴレコード」が1971年の『浅川マキの世界』を指すならば、本作が必ずしも「完全な」ライブ音源ではないことを示唆することになります。こうした音源の出自に関する不明瞭さが、作品のミステリアスな魅力を一層高めています。

ラジオ放送との関連

本作に収録されたライブの一部は、当時ラジオでも放送されました。ラジオでは、アルバムには未収録だったライブ音源もオンエアされています。その中には、浅川マキの初期のレパートリーでありながら公式な音源が発売されていなかった「Left Alone」や、『ブルー・スピリット・ブルース』に収録されている「奇妙な果実 STRANGE FRUIT」のライブバージョンが含まれていました。

収録曲

アルバムは以下の8曲で構成されています。

Side A
1. わたしの金曜日
作詩：浅川マキ／作曲：山下洋輔
2. 港町
作詩：Langston Hughes／作曲：山下洋輔／日本語詩：斎藤忠利
（※後にアルバム『マイ・マン』にてスタジオ録音）
3. ジン・ハウス・ブルース
作詩・作曲：Henry Troy-Fletcher Henderson／日本語詩：浅川マキ
（※オリジナルはアルバム『MAKI II』収録）
4. キャバレー
作詩：Langston Hughes／作曲：山下洋輔／日本語詩：斎藤忠利
Side B
1. あんな女ははじめてのブルース
作詩：Langston Hughes／作曲：山下洋輔／日本語詩：斎藤忠利
2. 今夜はおしまい
作詩・作曲：浅川マキ
（※後にアルバム『マイ・マン』にてスタジオ録音）
3. 戸を叩くのは、誰
作詩：寺山修司／作曲：浅川マキ
4. ボロと古鉄　RAGS AND OLD IRON
* 作詩：Oscer Brown Jr.／作曲：N.Cautis-O.Brown Jr.／日本語詩：浅川マキ

再発売と仕様

2011年には、本作を含む浅川マキのアルバムがデジタルリマスタリングされ、紙ジャケット仕様で再発売されました。この復刻盤では、オリジナルLP盤の歌詞カードやレコードレーベルのデザインが再現されましたが、帯については、オリジナル盤のデザインではなく、紙ジャケットシリーズ用に新たにデザインされたものに統一されました。また、オリジナル盤に帯の代わりに貼付されていたステッカーなども再現されていません。

クレジット

本作の制作には、浅川マキ（Vocals）のほか、山下洋輔（Piano）、森山威男（Drums）、坂田明（Alto Sax, Clarinet）、稲葉国光（Bass）が演奏で参加しました。スタッフとしては、寺本幸司、柏原卓、谷古宇広光、関根ゆき子がプロデューサーを務め、渋谷森久がディレクター、森知明がミキサー、周東圀夫がデザイナー、内田巧がカラトニング、瀬村真理がレコーディングマネージャーを担当しました。その他、TAKE ONEがSpecial Thanksとしてクレジットされています。

『MAKI VI』は、浅川マキの音楽世界における重要な節目であり、ジャズとの刺激的な邂逅が生んだ唯一無二のサウンドは、今なお多くのリスナーを引きつけています。その音源の背景に秘められた謎もまた、作品の持つ奥深さに繋がっていると言えるでしょう。

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