MAKI II
『MAKI II』（マキ・ツー）、時に『浅川マキ II』とも記される本作は、浅川マキが1971年9月5日に東芝音楽工業（現ユニバーサルミュージック合同会社内EMIレコーズ・ジャパン）から発表した通算2枚目のオリジナルアルバムである。
前作『浅川マキの世界』で顕著だった日本的な情趣とは一線を画し、本作ではジャズ、ブルース、ゴスペルといったアメリカ由来の音楽に深く根差した、より普遍的でスピリチュアルな響きを追求している。この転換は、単なるスタイルの変化に留まらず、浅川マキが自身の音楽世界を確立し、その唯一無二の存在感を示し始めた重要なマイルストーンと言えるだろう。内省的でありながら力強い、彼女の真髄に迫る楽曲群が収められている。
全12曲が収録されており、その多くは編曲家の山木幸三郎が手掛けている。作詞には浅川マキ自身に加え、寺山修司や喜多条忠といった個性的な詩人が名を連ねている。特に寺山修司による「眠るのがこわい」「花いちもんめ」「あたしが娼婦になったなら」は、彼独特の退廃的かつ幻想的な世界観と浅川マキの歌声が見事に融合した楽曲だ。
アルバムには既発シングルや後にシングルカットされた楽曲も含まれる。「港の彼岸花」は3rdシングルのA面曲だが、本作には別テイクのアルバムバージョンが収録されており、聴き比べも興味深い。「少年」と「めくら花」は、アルバム発売の翌月には4thシングルとしてカップリングでシングルカットされた。シングルの歌詩カードにも、アルバム同様に浅川マキの直筆の歌詩が印刷されていたというエピソードも残っている。
トラディショナル（伝承曲）を浅川マキ独自の世界観で昇華させた楽曲も本作の大きな特色だ。「ジン ハウス ブルース」「ゴー ダウン モーゼ」「朝日のあたる家」がそれに当たる。「ゴー ダウン モーゼ」は有名な黒人霊歌であり、「朝日のあたる家」は古くから伝わるフォークソングに浅川マキが日本語詞をつけたもの。本作に収録されている「朝日のあたる家」は、ライブ録音であり、1971年6月15日に新宿・花園神社で行われた公演で収録された音源が使われている。スタジオ録音は存在せず、後年のライブアルバム『MAKI LIVE』にも「朝日楼」として収録されている。
異色の楽曲としては「ゴビンダ」がある。これもトラディショナルとされているが、ジョージ・ハリスンがインド音楽に傾倒していた時期の楽曲の影響を感じさせ、サンスクリット語で歌われている。クラシックのフリギア旋法を応用した音使いや、4分の4拍子を基本としながらも2拍子や3拍子を織り交ぜる複雑なリズム構成など、音楽理論的な側面からも興味深い一曲だ。
本作の演奏には、当時の日本の音楽シーンを牽引した多くの名うてのミュージシャンたちが参加している。ピアノに今田勝、江草啓介、ギターには中牟礼貞則、成毛滋、ドラムスにはつのだひろなど、ジャズやロック、フォークなど様々なジャンルで活躍したプレイヤーたちの名前がクレジットされており、浅川マキの音楽がジャンルを超えた才能を引き寄せていたことがうかがえる。彼らの巧みな演奏が、浅川マキの深みのある歌声と世界観をより一層際立たせている。
オリジナルLP盤は、東芝音楽工業が当時推進していた高音質技術「PTS-DX-CLEAR SOUND SX-68（PTS-Ⅱ方式）」を適用したものが存在し、ジャケットにその証であるシールが貼られたものと貼られていないものがある。この技術は、音の歪みを抑え、特に高域をクリアに再現することを目指したものだった。また、歌詩カードが浅川マキ本人の直筆文字で印刷されている点も、アーティストの息吹が感じられる貴重な要素となっている。
CD化は、アルバム発売から20年以上を経た1992年に、東芝EMIとアルファレコードによる共同企画「音蔵シリーズ」の一枚として初めて実現した。その後、浅川マキのアルバム群は何度か再発されており、特に2011年には70年代および80年代のオリジナルアルバムがデジタルリマスタリングされ、紙ジャケット仕様で復刻された。この紙ジャケット盤は、オリジナルLPのジャケットやレーベル、歌詩カードのデザインを可能な限り再現しているが、帯は新たにデザインされたものに統一された点や、スキャン元のLPジャケットに存在した点ジミがそのまま印刷されているといった、マニアックな仕様の差異も存在する。2016年には、ユニバーサルミュージックから限定アナログLP盤としても再リリースされ、時代を超えて本作が愛され続けていることが証明された。
『MAKI II』は、浅川マキの音楽性が大きく飛躍し、その個性とスピリットが確立された記念碑的作品である。ジャズやブルースを基調としながらも、ジャンルに囚われない多様な楽曲が収録されており、彼女のアーティストとしての懐の深さを感じさせる。その後の日本のアンダーグラウンドシーンや女性シンガーソングライターに与えた影響も計り知れない、まさに孤高のアーティスト浅川マキを語る上で欠かせない一枚と言えるだろう。
音楽性の転換と深化
前作『浅川マキの世界』で顕著だった日本的な情趣とは一線を画し、本作ではジャズ、ブルース、ゴスペルといったアメリカ由来の音楽に深く根差した、より普遍的でスピリチュアルな響きを追求している。この転換は、単なるスタイルの変化に留まらず、浅川マキが自身の音楽世界を確立し、その唯一無二の存在感を示し始めた重要なマイルストーンと言えるだろう。内省的でありながら力強い、彼女の真髄に迫る楽曲群が収められている。
収録曲と背景
全12曲が収録されており、その多くは編曲家の山木幸三郎が手掛けている。作詞には浅川マキ自身に加え、寺山修司や喜多条忠といった個性的な詩人が名を連ねている。特に寺山修司による「眠るのがこわい」「花いちもんめ」「あたしが娼婦になったなら」は、彼独特の退廃的かつ幻想的な世界観と浅川マキの歌声が見事に融合した楽曲だ。
アルバムには既発シングルや後にシングルカットされた楽曲も含まれる。「港の彼岸花」は3rdシングルのA面曲だが、本作には別テイクのアルバムバージョンが収録されており、聴き比べも興味深い。「少年」と「めくら花」は、アルバム発売の翌月には4thシングルとしてカップリングでシングルカットされた。シングルの歌詩カードにも、アルバム同様に浅川マキの直筆の歌詩が印刷されていたというエピソードも残っている。
トラディショナル（伝承曲）を浅川マキ独自の世界観で昇華させた楽曲も本作の大きな特色だ。「ジン ハウス ブルース」「ゴー ダウン モーゼ」「朝日のあたる家」がそれに当たる。「ゴー ダウン モーゼ」は有名な黒人霊歌であり、「朝日のあたる家」は古くから伝わるフォークソングに浅川マキが日本語詞をつけたもの。本作に収録されている「朝日のあたる家」は、ライブ録音であり、1971年6月15日に新宿・花園神社で行われた公演で収録された音源が使われている。スタジオ録音は存在せず、後年のライブアルバム『MAKI LIVE』にも「朝日楼」として収録されている。
異色の楽曲としては「ゴビンダ」がある。これもトラディショナルとされているが、ジョージ・ハリスンがインド音楽に傾倒していた時期の楽曲の影響を感じさせ、サンスクリット語で歌われている。クラシックのフリギア旋法を応用した音使いや、4分の4拍子を基本としながらも2拍子や3拍子を織り交ぜる複雑なリズム構成など、音楽理論的な側面からも興味深い一曲だ。
参加ミュージシャン
本作の演奏には、当時の日本の音楽シーンを牽引した多くの名うてのミュージシャンたちが参加している。ピアノに今田勝、江草啓介、ギターには中牟礼貞則、成毛滋、ドラムスにはつのだひろなど、ジャズやロック、フォークなど様々なジャンルで活躍したプレイヤーたちの名前がクレジットされており、浅川マキの音楽がジャンルを超えた才能を引き寄せていたことがうかがえる。彼らの巧みな演奏が、浅川マキの深みのある歌声と世界観をより一層際立たせている。
オリジナル盤と再発売
オリジナルLP盤は、東芝音楽工業が当時推進していた高音質技術「PTS-DX-CLEAR SOUND SX-68（PTS-Ⅱ方式）」を適用したものが存在し、ジャケットにその証であるシールが貼られたものと貼られていないものがある。この技術は、音の歪みを抑え、特に高域をクリアに再現することを目指したものだった。また、歌詩カードが浅川マキ本人の直筆文字で印刷されている点も、アーティストの息吹が感じられる貴重な要素となっている。
CD化は、アルバム発売から20年以上を経た1992年に、東芝EMIとアルファレコードによる共同企画「音蔵シリーズ」の一枚として初めて実現した。その後、浅川マキのアルバム群は何度か再発されており、特に2011年には70年代および80年代のオリジナルアルバムがデジタルリマスタリングされ、紙ジャケット仕様で復刻された。この紙ジャケット盤は、オリジナルLPのジャケットやレーベル、歌詩カードのデザインを可能な限り再現しているが、帯は新たにデザインされたものに統一された点や、スキャン元のLPジャケットに存在した点ジミがそのまま印刷されているといった、マニアックな仕様の差異も存在する。2016年には、ユニバーサルミュージックから限定アナログLP盤としても再リリースされ、時代を超えて本作が愛され続けていることが証明された。
まとめ
『MAKI II』は、浅川マキの音楽性が大きく飛躍し、その個性とスピリットが確立された記念碑的作品である。ジャズやブルースを基調としながらも、ジャンルに囚われない多様な楽曲が収録されており、彼女のアーティストとしての懐の深さを感じさせる。その後の日本のアンダーグラウンドシーンや女性シンガーソングライターに与えた影響も計り知れない、まさに孤高のアーティスト浅川マキを語る上で欠かせない一枚と言えるだろう。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。