MAKS・スペースプレーン

MAKS（多目的航空宇宙システム）

MAKS（多目的航空宇宙システム、ロシア語: МАКС）は、1988年にロシアで構想され、1991年に計画が中止された、空中発射方式の再使用型有人宇宙船システムです。その最大の目的は、低軌道へのペイロード輸送コストをこれまでのロケット打ち上げと比較して劇的に削減することにありました。具体的には、重量あたりの打ち上げ費用を約10分の1に抑えることを目指しており、再使用可能なオービターを核とする画期的なシステムでした。

システム構成と運用

MAKSシステムは、世界最大の輸送機であるアントノフAn-225「ムリーヤ」を母機として利用する独特な方式を採用していました。An-225の機体上部に、再使用型のオービターと使い捨て式の外部燃料タンクを結合した状態で搭載し、空中に飛行した後にオービターを分離・発射するというものです。計画では、An-225はMAKSを搭載して一般的なクラス1空港から離陸し、特定の高度と速度に達したところでオービターを分離。オービターは自力で軌道へと向かい、任務完了後は通常の空港へ着陸して整備を受けることが想定されていました。外部燃料タンクを除く主要コンポーネントは再利用を前提としており、これにより大幅なコスト削減が可能になると期待されていました。このシステムは、地上に固定された射場に依存しないため、運用上の柔軟性が非常に高いという利点を持っていました。

技術的特徴と性能

MAKSは複数の派生型が検討されていました。標準型のMAKS-OSに加え、ペイロード能力を向上させたMAKS-T、そして燃料タンクをオービターの機体内部に収めるMAKS-Mといった概念も存在しました。システム全体の総重量は目標として275トン（初期案では250トン）とされ、低軌道へ最大7トンのペイロードを投入する能力を目指していました。有人仕様では2名の乗員と8.3トンの貨物を、無人仕様では9.5トンの貨物を搭載可能とされていました。再使用回数は最大100回が目標でした。

オービターはブラン宇宙往還機の開発で得られた知見を基に設計され、空虚重量は約18.4トン、全幅12.5メートル、全長19.3メートルでした。推進システムには、高密度推進剤を使用する三液式エンジンのRD-701（NPOエネゴマシュ開発）が採用される計画でした。RD-701は液体酸素、ケロシン、液体水素を組み合わせたもので、比較的無毒性の推進剤を使用することにより、環境への負荷軽減にも配慮されていました。将来的には、ロシアの緯度の高い射場からではアクセスが困難な静止軌道へのペイロード輸送も視野に入れられており、低緯度からの空中発射による経済的優位性が見込まれていました。

開発の経緯と経済性

MAKS計画は1980年代、モルニア科学生産共同体を中心に開発が開始されました。BOR-4などの無人実験機を用いた飛行試験などが実施され、開発コード「9A-10 485」が付与されました。この計画は、国家主導であったブラン計画とは異なり、自立採算が企図されていました。再使用による低コスト運用により、わずか1.5年での減価償却と、投資額の8.5倍もの利益を生み出すことが期待されていました。目標とされた低軌道へのペイロード単価約1000ドル/kgは、当時の平均的な打ち上げコスト（約8000〜12000ドル/kg、比較的安価なドニエプルでも約3500ドル/kg）と比較して圧倒的な低価格であり、宇宙開発の経済性を根底から覆す可能性を秘めていました。

計画の評価と現状

その革新的な概念は国内外で高く評価されました。1994年にはブリュッセルの国際発明展「ブリュッセル・エウレカ94」で、科学研究と産業技術革新部門の金メダルを受賞しています。これまでに計画には約140億ドルが投じられたとされています。しかし、計画は最終的に中止の憂き目を見ることになりました。実物大モックアップの製作も進められましたが、後に廃棄されたと伝えられています。

計画中止後も、そのポテンシャルは忘れられていませんでした。2010年には、ロシア国内でMAKS計画の復活が検討されていると報じられるなど、その革新的な空中発射・再使用方式への関心は根強く残っています。MAKSは、宇宙ステーションへの緊急物資輸送や乗員救助、さらには偵察・諜報活動など、軍事・商業の両面で幅広い応用が想定されており、もし実現していれば、世界の宇宙輸送システムに大きな影響を与えたであろう画期的な計画と言えます。

関連事項
RD-701
アントノフAn-225 ムリーヤ

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