MC88000

MC88000とは

MC88000は、米モトローラ社が1980年代に開発したRISC（Reduced Instruction Set Computing）アーキテクチャのプロセッサです。通称として「88000」や「m88k」とも呼ばれます。

同時期に登場したSPARCやMIPSといったRISCプロセッサと比較して、市場への投入が遅れたこと、そして後継となるMC88110の開発も遅れたことが、その普及を阻む大きな要因となりました。

歴史

当初はMC68000シリーズへのオマージュとして「MC78000」と名付けられましたが、開発の過程で紆余曲折を経て、1988年4月に「MC88000」として発表されました。

1980年代後半には、NeXT、Apple、アポロコンピュータといった企業がMC88000の採用を検討していましたが、MC88110の登場が1990年にずれ込んだため、いずれも採用を見送っています。

MC88000の普及を目指して、88openグループが結成されました。これはサン・マイクロシステムズがSPARCで行った活動に似ていますが、88openはELF ABI仕様を策定したものの、それ以外には大きな成果を上げることができませんでした。

1990年代初頭、モトローラはAIM連合に参加し、IBMのPOWERアーキテクチャをベースとした新しいRISCプロセッサの開発に関わることになりました。MC88000の特徴の一部はPowerPCに引き継がれ、顧客に対してある種のアップグレードパスを提供しました。これにより、MC88000は徐々に市場から姿を消していくことになりました。

アーキテクチャ

MC88000は、32ビットのロード/ストアアーキテクチャを採用しており、命令キャッシュとデータキャッシュを分離したハーバードアーキテクチャとなっています。また、データバスとアドレスバスも分離されています。

命令セットは小さく、強力であることが特徴です。他のモトローラ製CPUと同様にセグメント方式は採用されていません。

アーキテクチャ上の大きな欠点として、整数演算命令と浮動小数点演算命令で同じレジスタファイルを使用していたことが挙げられます。これにより、レジスタファイルは多数のリード/ライトポートを備える必要があり、正確な例外処理のためのヒストリーバッファもポートを必要としたため、高周波数のスーパースケーラ実装が困難になりました。

実装

MC88000アーキテクチャの最初の実装は、FPUを内蔵したMC88100マイクロプロセッサでした。これと組み合わせて使用するMC88200は、MMUとキャッシュコントローラを担当するチップでした。

このように分割したのはマルチプロセッサシステムの構築を容易にするためで、1つのMC88200が最大4つのMC88100をサポートできました。しかし、シングルプロセッサシステムを構築する場合でも、2つのチップを搭載して配線する必要があり、コスト高になるという問題がありました。

この問題を解決するため、2つのチップを1つのパッケージに収め、一次キャッシュを内蔵したスーパースケーラプロセッサMC88110が開発されました。さらに、マサチューセッツ工科大学の*Tプロジェクトの要請により、マルチプロセッサシステムのための通信機能を組み込んだMC88110MPも開発されました。

その後、100MHzまで高速化したMC88120も計画されましたが、製品化には至りませんでした。

組み込み向けのプロセッサとしてMC88300も開発されていましたが、後に中止されました。フォード・モーターが最大の顧客になる予定でしたが、フォードはPowerPCへの移行を決定しました。

採用事例

モトローラは、MC88000を使用したシングルボードコンピュータシリーズMVMEをリリースしました。また、MVMEボードを使用したSeries 900というコンピュータもリリースしています。Series 900は、コンポーネントを積み重ね、バスのようなケーブルで相互接続するという珍しい形状をしていました。

サードパーティのユーザーは多くありませんでしたが、データゼネラル（DG）のAViiONは代表的な例です。DGは1995年にインテルのマイクロプロセッサに移行するまで、MC88000シリーズを使い続けました。その他、アンコールコンピュータのInfinity 90など、いくつかの採用事例がありましたが、販売台数は不明です。アンコールは後にAlphaアーキテクチャに移行しました。

GECコンピュータは、MC88100を採用したGEC 4310を開発しました。しかし、GEC 4310はメモリ管理に問題があり、従来のGEC 4000シリーズよりも性能が劣っていました。BBN ButterflyのTC-2000は、MC88100プロセッサを最大512個まで接続可能でした。ライノタイプ・ヘルは、MC88110を搭載したPowerワークステーションを開発し、画像編集ソフトDaVinciを動作させました。

1980年代後半には、NeXTやApple ComputerがMC88000の採用を検討しましたが、MC88110の登場が1990年になったため、採用には至りませんでした。NeXTはMC88110を使用したマシンを試作しましたが、1993年にハードウェア事業から撤退したため、お蔵入りとなりました。日本のオムロンは4プロセッサのluna88kを開発し、カーネギーメロン大学のMachプロジェクトで一時的に使用されました。ノーザンテレコムは、1990年代初頭にMC88100とMC88110を搭載したデジタル交換機DMS SuperNodeファミリを開発しました。

その他、Alpha MicrosystemsやNCD、Dolphin Serverといった中小企業がMC88000を採用しました。組み込み用途では、F-15 S/MTDの「Tri-channel VMS Computer」が、MC88000を3つ使用した三重冗長化コンピュータとして利用されました。

OSサポート

モトローラは、自社開発のUNIX System V派生OSであるSystem V/88をリリースしました。データゼネラルのAViiONでは、DG/UXが動作していました。

OpenBSDには、MVME版、Luna88k版、AViiON版の移植版があります。また、非公式ながらMVME向けのNetBSD移植版も存在します。

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