MDR-5 (航空機)

ベリエフ MDR-5

ベリエフ MDR-5は、1930年代後半にソビエト連邦のタガンログにあるベリエフ設計局（ОКБ Бериев）によって開発された双発飛行艇です。この機体は、「Morskoi Dalnii Razvyeedchik」というロシア語の頭文字から名付けられており、その名の通り「海軍長距離偵察機」としての役割と、加えて爆撃任務を遂行する能力を併せ持つ多用途機として構想されました。

開発の背景と設計

当時のソ連海軍は、広大な沿岸線の偵察や哨戒、そして海上における攻撃任務を遂行するための近代的な飛行艇を求めていました。これに応えるべく、ベリエフ設計局はMDR-5の開発に着手しました。機体の構造は、当時の新しい技術を取り入れ、全金属製とされました。主翼は胴体上部に配置される片持ち式高翼単葉で、飛行艇特有の構造です。これにより、波浪による影響を受けにくくし、またプロペラが水面に接触する危険性を減らしています。動力には、信頼性の高いツマンスキー M-87A 星型エンジンが2基搭載されました。このエンジンはそれぞれが約950馬力（710 kW）を発揮し、機体に要求される長距離飛行性能と速度性能を与える役割を担いました。MDR-5は5名の乗員によって運用されるよう設計されており、操縦士、航法士、通信士、そして機銃手といった役割分担が想定されていました。

試験と不採用

MDR-5の開発過程では、合計で2機の試作機が製作されました。最初に完成した試作1号機は純粋な飛行艇型として、1938年に無事初飛行を成功させました。これに続いて開発された試作2号機は、より柔軟な運用を可能にするため、引き込み式の降着装置を備えた水陸両用機として設計されました。これらの試作機による試験の結果、MDR-5は概ね設計通りの性能を発揮し、軍の要求に対して満足のいく評価を得られたとされています。しかし、開発競争はMDR-5単独で行われていたわけではありませんでした。同時期に、別の設計局であるチェトヴェリコフが開発していた競合機、MDR-6も同様の任務を想定して開発が進められていました。最終的に、軍当局はMDR-6の方を高く評価し、こちらに対して量産発注を決定しました。この結果、MDR-5は性能的には良好であったにも関わらず、既に量産体制が整えられたMDR-6に道を譲る形となり、それ以上の開発や量産が行われることなく計画は中止されることとなりました。

主要な技術仕様

MDR-5の具体的な技術仕様は以下の通りです。

乗員: 5名
全長: 15.88メートル
全幅: 25.00メートル
翼面積: 78.5平方メートル
空虚重量: 6,083 kg
最大離陸重量: 8,000 kg
エンジン: ツマンスキー M-87A 星型エンジン × 2基
各 約710 kW （約950 hp）
最大速度: 345 km/h
航続距離: 2,415 km
実用上昇限度（巡航高度）: 8,150メートル
武装:
7.62 mm ShKAS機関銃 × 3挺 （機首、胴体中央の旋回銃塔、胴体下面の射撃開口部）
爆弾搭載量：最大 1,000 kg

これらの要目からもわかるように、MDR-5は当時の技術水準において、長距離の洋上偵察や限定的な攻撃任務を遂行する能力を備えていました。特に、爆弾搭載量1,000kgは、小型船舶などに対する攻撃能力を示しています。

結論

ベリエフ MDR-5は、ソビエト連邦が長距離偵察・爆撃飛行艇として開発を進めた意欲的な機体でした。全金属構造や強力なエンジン、そして十分な航続距離と武装を備え、その基本的な性能は軍の要求を満たすものでした。しかし、航空機の開発というものは、技術的な優劣だけでなく、開発のタイミングや競合機の存在といった様々な要因によってその運命が左右されます。MDR-5は、より早期に量産体制が確立されたチェトヴェリコフ MDR-6に敗れる形で、実戦配備に至ることはありませんでした。ソ連海軍の歴史において、表舞台に立つことはありませんでしたが、ベリエフ設計局の飛行艇開発技術の一端を示す機体として、航空史の中にその名を刻んでいます。

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