MGM-31 (ミサイル)

MGM-31 パーシングミサイル：冷戦時代の戦力と遺産

MGM-31 パーシングミサイルは、アメリカ陸軍が運用した2段式固体燃料準中距離弾道ミサイルです。レッドストーンミサイルの後継として、マーティン・マリエッタ社によって設計・製造され、その名称はアメリカ陸軍元帥ジョン・パーシングに由来しています。パーシングミサイルシステムは、アメリカ陸軍ミサイル軍団によって管理され、野戦砲兵隊によって運用されました。

開発の経緯

1950年代後半、アメリカ軍は射程500～750kmの弾道ミサイルの開発に着手しました。当初はレッドストーンミサイルの改良型として「レッドストーン-S」と呼ばれていましたが、後に「パーシング」と改名されました。複数の企業が開発に参加し、競争の末、マーティン社（後のマーティン・マリエッタ社）が契約を獲得しました。マーティン社はフロリダ州オーランドに新たな施設を建設し、開発を進めました。この過程では、ゼロ・ディフェクトの概念が導入され、ミサイルの生産性と信頼性が向上しました。

各型と性能

パーシングミサイルにはいくつかの型式が存在します。

MGM-31A パーシング I: 初期生産型。射程は約740km、核出力400ktのW50核弾頭を搭載可能でした。発射システムは、TEL（Transporter Erector Launcher）と呼ばれる移動式発射台を使用し、4両の装軌車両で構成されていました。誘導システムはアナログ式で、事前に測量された地点での発射が必要でした。
MGM-31A パーシング Ia: パーシングIの改良型。即応警戒（QRA）任務に適した設計で、発射速度の向上や電子機器の更新が施されました。また、発射機の数は増加し、運用性が向上しました。発射前の測量が不要となる改良も施されました。
MGM-31B パーシング II: パーシングIの後継型。核出力5～50ktのW85核弾頭またはW86核弾頭を搭載し、アクティブ・レーダー誘導による機動再突入体（MaRV）技術を用いることで、命中精度を大幅に向上させました。射程は約1770kmにまで延長されました。発射システムは簡素化され、測量なしで発射が可能となりました。
パーシング Ib: パーシングIIの単段式バージョン。パーシングIaの後継として計画されましたが、INF条約によって配備されませんでした。
* パーシング II RR: 発射機に2基のパーシングIIを搭載するための改良型。こちらもINF条約によって配備されませんでした。

配備と運用

パーシングミサイルは、主に西ドイツと韓国に配備されました。西ドイツへの配備は、ソ連のミサイルに対抗するための重要な戦略でした。アメリカ陸軍とドイツ空軍が運用し、即応警戒体制を構築しました。冷戦終結に伴い、INF条約に基づき、1988年に廃棄されました。

遺産

パーシングミサイルは、冷戦時代の重要な兵器システムとして歴史に刻まれています。INF条約による廃棄後も、その一部は博物館に展示されています。また、廃棄されたミサイルのスクラップ材は、芸術作品や平和記念碑などに再利用され、核兵器廃絶を訴える象徴となっています。さらに、パーシングミサイルとその運用に従事した兵士の功績を称え、歴史を保存する団体も設立されています。

仕様

まとめ

MGM-31 パーシングミサイルは、冷戦時代の技術革新と軍事的緊張を象徴する存在でした。その高性能と戦略的重要性は、冷戦時代の歴史を理解する上で重要な要素であり、その遺産は平和への願いを込めた様々な形で現代に受け継がれています。

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