核出力

核出力：核兵器の威力を測る尺度

核出力とは、核兵器の爆発によって放出されるエネルギー量を示す指標です。一般的に、同等のエネルギーを発生させるのに必要なトリニトロトルエン（TNT）の質量で表され、その威力の大きさを示す尺度として用いられています。

単位と換算

核出力の単位としては、キロトン（kt、1,000トンTNT相当）やメガトン（Mt、1,000,000トンTNT相当）が広く用いられています。近年では、より精密な表現としてテラジュール（TJ）も使用されるようになってきました。ただし、TNTの爆発エネルギーは厳密に一定ではなく、特に核兵器開発黎明期には測定の精度にばらつきがありました。そのため、1 ktの核出力は、1グラムのTNTのエネルギーを4.184 kJと仮定して、1,000トンのTNTのエネルギー量として定義されています。

核出力と核威力

日本語では「核出力」という用語が、原子力発電所の原子炉の出力にも用いられるため、核兵器の爆発力を明確に示す場合は「核威力」という言葉が使われることもあります。「核威力」は核兵器による破壊力のみに限定されず、核保有国による外交的・軍事的な圧力なども含む曖昧な意味で使われる場合があるため、本稿では、原子力分野における一般的な用語である「核出力」を、核兵器の威力についても示すものとして用います。

核出力の限界

核兵器の質量と核出力の比である核出力質量比は、核兵器設計の重要な指標です。水素爆弾の理論上の最大核出力質量比は約6 Mt/tですが、現実的には約5.2 Mt/t程度です。アメリカ合衆国の核兵器では、600 kt/tから2.2 Mt/tの範囲にあり、兵器の種類によって大きく異なります。例えば、小型の戦術核兵器であるデイビー・クロケットは0.4～40 kt/tと幅がある一方、ツァーリ・ボンバは2 Mt/tの核出力を持っていました（当初は倍の出力設計でしたが、意図的に半分に減らされたと言われています）。

純粋な核分裂爆弾では、500 kt程度が設計上の限界とされています。核融合反応による増幅は効率向上に繋がりますが、核分裂兵器は臨界量の問題があり、出力には限界があります。一方、核融合爆弾（水素爆弾）には、現時点では理論的な出力限界は存在せず、数千Mt（ギガトン級）の核出力が原理的には可能です。

しかしながら、航空機やミサイルによる核兵器の運搬能力には制限があるため、搭載可能な核兵器の最大出力も制限されます。例えば、アントノフAn-225のような大型輸送機であっても、搭載できる核兵器の総出力には限界があります。

核出力の算出と論争

核爆発のエネルギーを正確に算出するのは困難です。爆発規模、明るさ、地震計データ、衝撃波強度などから推定しますが、特に管理が行き届かない状況では大きな誤差が生じます。エンリコ・フェルミはトリニティ実験で、紙片の飛散距離から核出力を概算したことで有名です。

G.I.テイラーが導いた無次元数を使った方法も、核出力の推定に用いられます。この方法は、爆発半径、時間、空気密度などのデータから核爆発のエネルギーを計算します。トリニティ実験の写真を例に計算すると、約20 ktという公表値と比較的近い値が得られます。

しかし、実験データが不足する場合、特に政治的な要因が絡む場合は、核出力の正確な値は論争の的となります。広島と長崎への原爆投下で使われた兵器は独特な設計であり、正確な核出力の測定は困難です。例えば、長崎型原爆「ファットマン」は18～23 kt、広島型原爆「リトルボーイ」は12～18 ktと推定されていますが、ガンバレル型であるリトルボーイはデータが少なく、誤差が大きくなっています。

核出力の値は、技術力の誇示や、核開発計画の能力を誇張または軽視するために政治的に操作される可能性もあります。例えば、インドの1998年の核実験では、インド側の報告値より低い核出力だったと主張する西側諸国もありました。この主張の裏には、インドの核技術の能力に対する評価や、地政学的な思惑が絡んでいる可能性があります。

核出力の算出には不確実性がつきまとうため、正確な値を特定することは容易ではありません。しかし、様々なデータや計算方法を用いることで、核兵器の威力の規模を推定することができます。

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