MGM-52 (ミサイル)

MGM-52 ランス：冷戦時代の短距離弾道ミサイル

MGM-52 ランスは、アメリカ陸軍が運用した移動式短距離弾道ミサイルシステムです。1970年代から1990年代初頭にかけて、熱核弾頭や通常弾頭を備え、火力支援任務に用いられました。冷戦終結後の1992年に退役しましたが、一部はミサイル防衛システムの標的として現在も残されています。

開発の経緯

ランスの開発は、1950年代後半にアメリカ陸軍が既存ミサイルシステムの後継として開始した「ミサイルB」計画に端を発します。複数の企業が開発競争に参加し、1962年にはリング・テムコ・ボート社（LTV）が主契約者として選定されました。開発過程では、ロケットモーターのトラブルなど様々な困難に見舞われましたが、1965年にはエンジニアリングモデルの初飛行試験に成功。その後も性能向上を続け、射程の延長や通常弾頭への対応などが行われました。開発には、コストプラスインセンティブフィー契約という、当時としては画期的な手法が採用されました。この契約方式は、研究開発の全段階を網羅するものであり、陸軍の兵器システム開発において初めて適用されました。

開発初期においては、1000ポンド（約450kg）のペイロード、75kmの射程、そして核弾頭、通常弾頭、化学兵器弾頭を搭載可能な多用途性を備えることが要求されていました。しかしながら、コスト削減のため、精度は約8kmとやや粗めに設定されています。

当初は牽引式発射機が予定されていましたが、後に自走式に変更され、M113装甲兵員輸送車をベースとしたM667ミサイル・キャリアーが開発されました。この開発にはカナダ政府も参加しました。

技術的特徴

ランスは、貯蔵可能液体推進剤を用いた可変推力ロケットモーターを搭載し、発射時には特徴的な黒煙を発生させました。誘導システムには、独自のDCAM（Directional Control Automatic Meteorological）補償原理を用いた慣性誘導システムを採用。大気条件の変化にも対応できる高い精度を誇っていました。

従来のミサイルと比較して、運用とメンテナンスが容易で、短時間での発射準備が可能だったことも特徴です。また、コンパクトなサイズのため、多くのミサイルを輸送・配備できました。

弾頭

ランスは、当初W70型熱核弾頭を装備していました。その派生型であるW70 Mod 3は、中性子爆弾として知られる放射線強化型弾頭でした。これは、中性子線を大量に放射することで、遮蔽物や装甲車両内部の敵兵を殺傷することを目的としていました。

中性子爆弾の開発は、政治的な論争を巻き起こしました。アメリカ政府は、この弾頭が敵兵のみを殺傷し、民間施設への被害を軽減すると主張しましたが、環境への影響や倫理的な問題が指摘され、配備は限定的でした。

通常弾頭としては、M251クラスター弾頭が使用されました。これは、M40小型爆弾を搭載したものでした。通常弾頭搭載のランスは、NATO加盟国などにも輸出されました。

運用と退役

ランスの配備は1973年に開始され、ヨーロッパとアメリカ合衆国に配備されました。また、NATO加盟国やイスラエルなどにも輸出されました。しかし、冷戦終結後、核軍縮の流れを受けて1991年から退役が始まり、1992年にはすべてのランス大隊が解散しました。

退役後、一部のランスミサイルは、ミサイル防衛システムの標的として使用されています。

まとめ

MGM-52 ランスは、冷戦時代のアメリカ陸軍を代表する短距離弾道ミサイルでした。その開発から運用、退役まで、数々の技術的課題や政治的思惑が絡み合った複雑な歴史を持っています。ランスは、軍事技術の発展と冷戦構造の変遷を象徴する存在と言えるでしょう。

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