MPEG-2システム

MPEG-2システムとは

MPEG-2システムは、MPEG-2で符号化された映像や音声データを多重化し、伝送するための規格です。ISO/IEC 13818-1およびITU-T勧告H.222.0で標準化されており、用途に応じてプログラムストリーム（PS）とトランスポートストリーム（TS）の2種類に分類されます。

エレメンタリストリーム（ES）

符号化された映像や音声データは、それぞれエレメンタリストリーム（ES）と呼ばれます。MPEG-2システムでは、以下のメディアデータやコーデックが利用可能です。

ビデオ: MPEG-1、MPEG-2、MPEG-4、MPEG-4 AVC、VC-1
オーディオ: MP1、MP2、MP3、AC-3、リニアPCM、DTS、AAC
静止画: JPEG

MPEG-2システムは、DVDの規格策定を目指して開発されましたが、両者の規格は完全に同一ではありません。DVDのアプリケーションフォーマットは、MPEG-2システムを前提として規定されています。

パケット化されたエレメンタリストリーム（PES）

ESは、適切なサイズに分割されてPES（Packetized Elementary Stream）というパケットに変換されます。PESパケットには再生時刻の情報が含まれており、映像と音声の同期再生を実現します。MPEG-2システムでは、PESを多重化して伝送または蓄積する方法として、PSとTSの2種類が定義されています。

PSとTSはデータ形式が異なるものの、相互に無劣化で変換することが可能です。

プログラムストリーム（PS）

PSは、単一のプログラム（同期された映像、音声、データの集まり）を、エラーが少ない環境（光ディスクやHDDなど）で扱うことを想定した形式です。DVDなどの記録形式として利用されており、MPEG-1システムの拡張版でもあります。

複数のPESパケットを連結し、先頭にパックヘッダを付与したものをパック（pack）と呼び、さらに複数のパックを連結したものがPSとなります。

PSには、映像や音声のPESだけでなく、各ESの詳細情報を示すProgram Stream Mapや、再生時刻とビットストリーム上のオフセット値を含むProgram Stream Directoryといった情報も挿入できます。

トランスポートストリーム（TS）

TSは、複数のプログラムをエラーが発生しやすい環境（放送や通信）で扱うことを想定した形式です。日本の地上/BSデジタル放送をはじめ、世界各国のデジタル放送規格で広く採用されています。

TSでは、PESパケットをトランスポートパケット（TSパケット）と呼ばれる188バイト固定長のパケットに分割します。このTSパケットの連続がTSとなります。各TSパケットには、パケット識別子（PID）と呼ばれる13ビットの情報が含まれており、どのデータを伝送しているかを示します。これにより、受信側は同じPIDを持つパケットを組み合わせて、元のPES（ES）に戻すことができます。

TSパケットの先頭4バイトにタイムスタンプ情報を付加した192バイトのパケットは、特にTTS（Timestamped TS）と呼ばれ、主に放送局で使用されます。

PSI/SI

TSには、複数のプログラムに関する情報が含まれており、その情報をPSI（Program Specific Information）と呼びます。PSIは、動画や音声とは別のPIDを持つTSパケットとして挿入されます。PSIには、以下のテーブルが含まれます。

PAT（Program Association Table）: TSに含まれるプログラム一覧とPMTのPIDを格納。PIDは必ず0。
PMT（Program Map Table）: あるプログラムに含まれる映像や音声などの各PIDを格納。PMTからPIDを取得することで、プログラムを再生可能。
CAT（Conditional Access Table）: 限定受信に関する情報を格納。PIDは必ず1。

MPEG-2システム規格ではPSIのみが記述されますが、多くのデジタル放送規格ではPSIを拡張し、番組情報などを含めたSI（Service Information）が規定されています。SIはPSIの一部とみなされ、PSI/SI情報としてまとめて扱われることが多く、SIにはEPG（電子番組ガイド）のほぼ全ての情報が含まれています。

ARIB STD-B10で規定されるSIには、以下のテーブルが含まれます。

NIT（Network Information Table）: チャンネル番号や変調方式など、ネットワークに関する情報。PIDは必ず0x10。
BIT（Broadcaster Information Table）: 放送局識別情報や各SIテーブルの再送周期など、放送局のSI送信情報。PIDは必ず0x24。
SDT（Service Description Table）: チャンネルの名称や、各チャンネルで送出されるEITの種類など。PIDは必ず0x11。
EIT（Event Information Table）: 番組の名称、放送日時、放送内容など番組に関連する情報。PIDは必ず0x12。EPGはこの情報を基に作成されます。
TOT（Time Offset Table）: 現在の日付、時刻、サマータイム情報。PIDは0x14。
NBIT（Network Board Information Table）: 案内などの掲示板情報。
LDT（Linked Description Table）: 他のテーブルから参照するための情報を集約。
TDT（Time Date Table）: 現在の日付、時刻に関する情報。TOTに全ての情報が含まれるため、通常は送信されない。PIDは0x14

番組より小さい単位（番組内イベント）に関する情報も拡張されており、以下のようなテーブルがあります。

LIT（Local Event Information Table）: 番組内イベントに関する情報。
ERT（Event Relation Table）: 番組および番組内イベントの関係に関する情報。
ITT（Index Transmission Table）: 番組内イベントに関連する時刻情報。

その他、ARIB STD-B1、B21では以下の情報も規定されています。

SDTT（Software Download Trigger Table）: デジタル放送受信機のソフトウェアの伝送スケジュール。
CDT（Common Data Table）: EPG画面で表示される、各サービスに対応したロゴ情報。

日本のデジタル放送における配信方式

日本のデジタル放送では、以下の2つのSI配信方式が用いられています。

各局SI: 各放送局が自局のSIのみを多重化して配信する方式。地上デジタル放送で採用。
全局SI: 各放送局のSIをSIセンターで集約し、全局SIとして各局に配信する方式。BSデジタル放送で採用。

トランスポートストリームのエラー検出

TSパケットヘッダには、同じPID内で値が1ずつ増加するcontinuity_counterという4ビットのカウンタがあり、受信側はこれを使ってパケットのロスを検出できます。また、TSパケットの先頭バイトは必ずsync_byte(0x47)であるため、エラーで同期を見失っても、sync_byteを検出して早期に同期を回復できます。さらに、PSIにはCRCチェックサムが含まれており、エラーによる受信機の混乱を防いでいます。

関連項目

MP4
コンテナフォーマット

外部リンク

VIDEO-ITを取り巻く市場と技術 第3回 MPEG-2 TSの概要 前編・後編
* VIDEO-ITを取り巻く市場と技術 第6回 MPEG-2 PS概要 前編・後編

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