MS-DOS Shell

DOSシェル：MS-DOS/IBM DOS時代のファイルマネージャ

DOSシェルは、MS-DOSおよびIBM DOS（PC DOS）バージョン4以降に標準搭載されていたファイルマネージャです。IBM DOSでは「DOSシェル」、MS-DOSでは「MS-DOSシェル」と呼ばれていました。1988年のDOS 4.0から登場し、PC DOS 2000、MS-DOS 6.22まで様々なDOSバージョンに含まれていました。

DOSシェルの機能とインターフェース

DOSシェルは、キャラクタモードとグラフィックモードの両方をサポートしており、キーボードとマウスの両方で操作が可能です。画面は、上部にファイル操作を行うための領域、下部にプログラム起動用の「メイン」画面と分かれています。

ファイル操作領域では、ドライブの選択、ファイルのオープン・コピー・削除などの基本的なディスク操作が実行できます。一方、「メイン」画面では、あらかじめ登録されたプログラムを、カーソルキーとEnterキー、またはマウスを使って起動することができました。これは、現代のプログラムランチャーやタスクスイッチャの原型と言えるでしょう。

DOSシェルから起動されたプログラムは子プロセスとして動作し、シングルタスク環境でした。ただし、32ビットCPU環境では仮想86モードを利用することで、複数のアプリケーションを起動し、Alt+Tabキー（PC-9800シリーズではGraph+Tabキー）で切り替える疑似マルチタスクも可能でした。しかし、アクティブなアプリケーション以外は動作を停止するという制限がありました。

WindowsやOS/2との類似性

DOSシェルの画面構成、機能、操作性は、1987年のMicrosoft Windows 2.0やOS/2バージョン1.1のプレゼンテーションマネージャ(PM)と非常に似ています。これは、これらの3製品がIBM SAA (Systems Application Architecture) のCUA'87 (Common User Access) 規格に準拠していたためです。CUA'87は、ユーザーインターフェースの標準化を目指したもので、共通の操作性を提供することを目的としていました。

DOSシェルの普及と衰退

IBM DOSでは、バージョン4.0以降、DOSシェルが標準のシェルとしてインストールされましたが、MS-DOS、特に日本では普及率が低いままでした。その理由は以下の通りです。

コンベンショナルメモリの消費: DOSシェルは、限られたコンベンショナルメモリを消費し、フリーエリアを圧迫しました。特に日本では、日本語入力システムがメモリを多く消費するため、十分なメモリが確保できず、アプリケーションが起動できないケースが多かったのです。
DOS 3.xの継続使用: IBM主導で開発されたDOS 4.0は、日本の国産PCメーカーにおいてはDOS 3.xが長く使われ続け、DOSシェルは浸透しませんでした。
* ファンクションキーとグラフィック環境: 日本のMS-DOS環境では、ファンクションキーを多用するアプリケーションやツールが一般的でした。本格的なグラフィック環境は、Windows 3.0が登場する1990年まで主流ではありませんでした。そのため、DOSシェルのグラフィカルインターフェースは、それほど必要とされませんでした。

MS-DOS 6.0では、DOSシェルは標準ディスクセットから除外されました。これは、IBMとマイクロソフトの共同開発契約がバージョン5までだったことと関係していると考えられます。ただし、一部の日本のPCメーカー（NEC、セイコーエプソンなど）では、MS-DOS 6.2にDOSシェルが同梱されていました。

まとめ

DOSシェルは、MS-DOS/IBM DOSの歴史において重要な役割を果たしたファイルマネージャです。WindowsやOS/2に先駆けてグラフィカルなインターフェースを提供した一方、メモリ制限や日本の市場環境などの要因から、広く普及するには至りませんでした。しかし、その存在は、後のGUI環境の発展に影響を与えたと言えるでしょう。

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