Macintosh互換機

Macintosh互換機（マック・クローン）

概要

アップル社（Apple）のClassic Mac OSを搭載し、同社が製造するMacintoshコンピューターと高い互換性を持つパーソナルコンピュータのことです。Mac OS互換機やマック・クローンとも呼ばれました。広範にはアップルのライセンスの有無にかかわらず互換機全般を指しますが、ここでは主に1995年から1998年頃にかけてアップルから正式なライセンスを受けて製造・販売された機種、すなわち狭義のMacintosh互換機について解説します。

経緯

1990年代半ば、パーソナルコンピュータ市場においてアップル社のシェアは低迷していました。この状況を打開し、市場拡大とシェア回復を目指すべく、アップル社は1994年9月に大胆な戦略を打ち出します。それは、自社のオペレーティングシステム（OS）であるClassic Mac OSのライセンスを他社に供与し、多様なMacintosh互換機を市場に投入することで、Macintoshプラットフォーム全体の普及を促進するというものでした。

このアップル社のライセンス供与に応じたのは、Macintoshにも搭載されていたPowerPCプロセッサを共同開発したモトローラ社やIBM社をはじめ、パイオニア社など多数の企業でした。特にIBM社は自社での互換機製造だけでなく、他の企業へのサブライセンス供与も行いました。また、1995年には、異なるハードウェアメーカーがMac OSを搭載したコンピュータを製造するための共通仕様であるCHRP（Common Hardware Reference Platform）が発表され、互換機開発の基盤が整備されました。

互換機の市場投入はまず米国で始まり、1995年 1月にはパワーコンピューティング社（Power Computing）とラディウス社（Radius）が最初の製品を発売しました。続いてモトローラ社、デイスターデジタル社（DayStar Digital）、台湾のUMAX社なども参入しました。日本国内では、1995年 5月にパイオニア社が最初の互換機を発売。その後、IBM社のサブライセンスを受け、UMAX社からロジックボードの供給を受けたアキア社からも製品が登場したほか、モトローラ社、ラディウス社、デイスターデジタル社、UMAX社といった海外メーカーも積極的に日本市場へ参入しました。

各社から発売された互換機は、アップル社製Macintoshにはない特徴を持つ多様な製品ラインナップが魅力でした。複数のプロセッサを搭載したマルチプロセッサーモデルや、音響性能を追求したモデルなど、それぞれのメーカーが独自性を打ち出した製品を提供しました。しかしながら、1997年頃になると、アップル社自身もPower Macintosh 4400などでCHRPベースのロジックボードを採用するなど、製品の低価格化を進めていました。このため、互換機の価格面での優位性は次第に薄れていきました。

互換機が登場したことにより、ハードウェアとしてのMacintoshと、OSとしてのMac OSを明確に区別する必要が生じました。これを受けて、1997年1月にリリースされたシステムソフトウェアは、初めて正式名称として「Mac OS 7.6」と名乗るようになります。これは、OSがアップル製ハードウェアだけでなく、互換機メーカーの製品にも搭載されることを示す重要な変更でした。

互換機の終焉とその後の動向

1997年にスティーブ・ジョブズ氏がアップル社に復帰すると、それまでの方針が見直されます。互換機は市場全体の拡大にはそれほど貢献せず、むしろアップル社自身のMacintosh製品との競争を生んでいると判断されました。その結果、アップル社は互換機戦略の撤回を決定します。1997年7月に発売されたMac OS 8以降、他社へのOSライセンス供与は打ち切られることが表明されました。

この方針転換は、互換機メーカーにとって大きな打撃となりました。多くのメーカーがパーソナルコンピュータ市場からの撤退を余儀なくされるか、PC/AT互換機|PC_AT互換機市場へと方向転換を図ることになります。互換機市場で最大手となっていたパワーコンピューティング社は、戦略撤回発表後の1997年9月にアップル社に買収されました。正規ライセンスに基づくMacintosh互換機の製造は、1998年12月末までにすべて打ち切られ、Mac OSを搭載するパーソナルコンピュータは再びアップル社のみから提供される体制に戻りました。

その後、2008年 4月には米国サイスター社がMac OS Xが動作する互換機を発表しましたが、これはアップル社のライセンスを受けていない非正規の製品であり、動作に不具合も報告されました。サイスター社はアップル社との法廷闘争の末、著作権侵害を認め267万ドル以上の賠償金を支払うことで和解し、2009年12月までに販売を中止しています。これ以降、現在に至るまで、アップル社から正規にライセンスを受けたMacintosh互換機は存在していません。

主要な互換機メーカーとその代表的な製品

アキア: 省スペース型の「MicroBook Power」シリーズなど。
デイスターデジタル (DayStar Digital): 複数のプロセッサを搭載した高性能な「Genesis MP」シリーズ。
モトローラ: 一般消費者向けの「StarMax」シリーズなど。
パイオニア: 高音質なスピーカーを内蔵したAV機能重視の「MPC」シリーズなど。
MaxxBoxx
パワーコンピューティング (Power Computing): 高速モデルから普及機まで幅広いラインナップ。「PowerTower Pro」、「PowerCenter」、「PowerBase」シリーズなど。
ラディウス (Radius): 画像処理やDTP用途に特化した高性能機。「System 100」、「System 81/110」など。
UMAX: 「Pulsar」、「Apus」、「SuperMac」シリーズなど。

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