Memex

Memex（メメックス）とは

Memex（メメックス）は、ヴァネヴァー・ブッシュが1945年に発表した論文「As We May Think（我々はかく思考する）」で提唱した、ハイパーテキストの先駆けとなる概念です。Memexは、個人の記憶を拡張するための機械であり、書籍、記録、通信内容などをデジタル化して格納し、高速かつ柔軟に参照できることを目指しました。この概念は、後のハイパーテキスト開発やWorld Wide Webの創造、個人用知識ベースソフトウェア開発に多大な影響を与えました。

Memexの具体的なイメージ

ブッシュが描いたMemexは、電気機械式の装置で、個人の図書館を構成します。マイクロフィルムのカメラとリーダーが組み込まれた机のような形状で、マイクロフィルム化された書籍や資料を格納し、必要に応じて追加・除去できます。机の上面には透過型スクリーンがあり、マイクロフィルムを投影して読むことができます。また、手書きのメモや写真をフィルムに記録する機能も備えています。

Memexの核心は「連想の航跡」という概念です。これは、リンクによって結ばれた一連のマイクロフィルムのコマで、情報を格納された順序とは関係なく、自由にたどることができます。ユーザーは、個人的なコメントや枝分かれした航跡を追加することもでき、自身の興味関心に沿って情報を探索できます。これは、人間の脳内で行われる連想を模倣した情報蓄積方法であり、情報へのアクセスを容易にすることを目指しました。

Memexが与えた影響

Memexのビジョンは、1960年代の初期のハイパーテキストシステムに大きな影響を与えました。ブッシュが示したアイデアは、当時の技術では実現困難でしたが、後の技術進歩によって、その概念が実現に向かうことになります。Memexは、情報爆発を知識爆発に転換する手段として構想されました。個人が情報を連結することで独自の知識ツールを作成し、それを共有することで、知識を洗練させ、公表できる環境を作ることを目指しました。

ブッシュのアイデアは、単に個人の研究成果を強化するだけでなく、「世界の記録」を構築し、利用する方法を大きく変革する可能性を秘めていました。

Memexの限界と批判

Memexには、自動検索機能や汎用的なメタデータ標準が欠けていました。ユーザーは、コードブックを作成し、登録した項目のインデックスと説明を書き込む必要がありました。これにより、情報の検索に手間がかかるという課題がありました。

また、ブッシュは情報学を十分に理解しておらず、目録や分類法について一般的な考え方とは異なる見解を持っていたという批判もあります。一部の専門家は、Memexが、個人の記録間の恣意的な関連付けの生成に重点を置きすぎており、本質的に自滅的な設計であると指摘しています。

しかし、Memexの連想的なリンクの概念は、初期のWebの発展にも影響を与えたとされています。現在では、検索エンジンによる自動インデックスが分類の努力を上回っていますが、連想的なリンクは、特定の分野を学ぶための効果的なナビゲーション方法であり続けています。

Memexの後継者

Memexの概念は、J・C・R・リックライダー、ダグラス・エンゲルバート、テッド・ネルソンなど、多くの研究者に影響を与えました。また、ブッシュの「As We May Think」は、ハイパーテキストだけでなく、パーソナルコンピュータ、インターネット、World Wide Web、音声認識、オンライン百科事典などの未来の発明を予見していました。

マイクロソフトリサーチのゴードン・ベルが提唱するMyLifeBits（個人が一生使える情報格納機器を作ろうとする計画）など、現代の研究にもMemexの影響が見られます。

まとめ

Memexは、実現には至らなかったものの、その革新的なアイデアは、後の情報技術の発展に大きな影響を与えました。ブッシュが提唱した「連想の航跡」の概念は、ハイパーテキストの原点であり、現代の情報環境を考える上で非常に重要な示唆を与えてくれます。

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