マイクロフィルム

マイクロフィルムとは

マイクロフィルムは、書籍、新聞、設計図面など、様々な資料を長期保存するために使用される記録媒体です。写真フィルムの一種であり、原版の資料を小型化して記録する技術が用いられています。これにより、物理的な劣化や保管スペースの問題を解決し、貴重な情報を後世に伝えることが可能になります。

歴史

マイクロフィルムの概念は、写真技術の黎明期から存在していました。1839年には、ジョン・ベンジャミン・ダンサーが資料を160分の1に縮小した写真を撮影したとされています。その後、1859年にルネ・ダグロンがマイクロフィルムの撮影、閲覧技術を確立し、特許を取得。普仏戦争では、情報伝達手段としてマイクロフィルムが活用されました。

本格的に普及したのは、1930年代に入ってからです。イーストマンコダック社がマイクロフィルム部門を立ち上げ、アメリカ議会[[図書館]]や大英図書館で採用されたことがきっかけとなり、マイクロフィルムは資料保存の重要な手段として定着しました。この普及により、これまで保管が難しかったコミックなどの資料も収蔵できるようになりました。

日本では、富士フイルムが1958年からマイクロフィルムの製造を開始しています。

形態

マイクロフィルムには、ロール状の「ロールフィルム」とシート状の「シートフィルム」があります。

ロールフィルム：リールに巻かれた状態で保管されるタイプと、カートリッジに収納されたタイプがあります。幅は16mmと35mmが一般的です。
シートフィルム：
マイクロフィッシュ：一枚のフィルムを碁盤状に区切り、それぞれに画像を記録したものです。特に、コンピュータ出力マイクロフィルム（COM）は、情報保存媒体として利用され、「com fiche」や「COMフィッシュ」とも呼ばれます。図書館や金融機関で、顧客名寄元帳などの記録媒体として使用されることがあります。
フィルムジャケット：ロールフィルムを数コマ単位で裁断し、ポケット付きのシートに収めたものです。
アパーチュアカード：ロールフィルムをコマごとに裁断し、穴の開いたカードに貼り付けたものです。IBMパンチカード規格に準拠しており、製造業では設計図面の保管管理に利用されています。

素材と耐久性

マイクロフィルムの素材には、主にセルロースエステルを使用したTACベースと、ポリエステルを使用したPETベースがあります。TACベースは柔軟性が低い一方、PETベースは耐久性に優れています。

マイクロフィルムの耐久性は非常に高く、適切な環境下で保管すれば100年以上の寿命を持つとされています。ただし、かつて使用されていたセルロースアセテートを原料としたマイクロフィルムは、高温多湿環境で劣化し、酢酸を生成する「ビネガーシンドローム」を起こすことが判明したため、現在ではポリエステルを原料としたものが主流となっています。

焼付方式

マイクロフィルムの焼付方式には、銀・ゼラチンマイクロフィルム、ジアゾフィルム、ベシキュラフィルムの3種類があります。銀・ゼラチンマイクロフィルムは保存性に優れ、ジアゾフィルムは経年劣化で変色することがあります。ベシキュラフィルムは気泡粒子で画像を形成しています。

作成と閲覧

マイクロフィルムを作成する際には、原版の資料を特殊な撮影機材で縮小して焼き付けます。閲覧には、マイクロフィルムリーダーと呼ばれる専用の投影機を使用します。必要に応じて、原版と同じサイズで印刷することも可能です。

保管

マイクロフィルムの理想的な保存環境は、相対湿度30～40%、温度20℃以下とされています。高温多湿な環境は、カビの発生やフィルムの劣化を招くため避ける必要があります。

問題点と対策

ビネガーシンドローム: TACベースのマイクロフィルムは、経年劣化により酢酸が発生し、フィルムの劣化を引き起こします。
カビ: 高温多湿な環境下ではカビが発生し、画像の劣化につながります。
マイクロスコピックブレミッシュ: 空気中の酸素により、フィルム上の銀が錆びて微細な斑点が発生することがあります。

マイクロフィルムの劣化を防ぐため、デジタルデータ化する取り組みも進められています。近年では、最初からデジタル撮影による保管が主流となっています。

他メディアとの比較

マイクロフィルムは、CD-ROMやDVDなどのデジタルメディアに比べて、長期保存に適しています。デジタルメディアは規格の陳腐化が早く、閲覧に必要な機器の入手が困難になる場合がありますが、マイクロフィルムは閲覧機器の陳腐化の心配がなく、改ざんが難しいというメリットがあります。

まとめ

マイクロフィルムは、歴史的文献や重要な図面などの貴重な資料を長期保存するための重要な媒体です。省スペースで大量の情報を保管でき、適切な環境下で保管すれば、数百年単位での保存も可能です。デジタル化が進む現代においても、マイクロフィルムは重要な役割を担っています。

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