My Lost City

『My Lost City』（マイ・ロスト・シティ）は、作曲家・久石譲が1992年2月12日に発表した7枚目のオリジナルアルバムです。副題として『HOMMAGE A Mr. SCOTT FITZGERALD』（オマージュ・ア・ミスター・スコット・フィッツジェラルド）と銘打たれており、アメリカの作家F・スコット・フィッツジェラルドへの敬意が込められています。

アルバムは、前作『I am』（1991年）から約1年ぶりのリリースとなりました。制作にあたっては、フィッツジェラルドが生きた1920年代を背景に、世紀末の現代社会を見つめながら、久石譲自身の内面世界を探求した作品となっています。久石自身も、本作を2003年のアルバム『ETUDE』と並ぶ自身の代表作であると語っています。

興味深いエピソードとして、本作と同時期に、宮崎駿監督も同じく1920年代を舞台としたアニメーション映画『紅の豚』を制作していました。久石譲は、宮崎駿が同じ時代をテーマに作品に取り組んでいたことに、運命的なものを感じたといいます。宮崎駿は、『紅の豚 イメージアルバム』と共に贈られた『My Lost City』を非常に気に入り、「あの曲が全部欲しい、全部『紅の豚』に欲しい」「イメージアルバムと取り替えて下さい」と久石譲に要求したという逸話も残っています。

収録曲は、インストゥルメンタル楽曲を中心に構成されています。

Prologue
漂流者〜Drifting in the City
1920〜Age of Illusion
Solitude〜in her...
Two of Us
Jealousy
Cape Hotel
狂気
冬の夢
Tango X.T.C.
* My Lost City

アルバム収録曲のうち、「1920〜Age of Illusion」は、『紅の豚』の冒頭で使用された楽曲「時代の風 人が人でいられた時」に影響を与えました。宮崎駿の要望により、この曲をイメージしたものが書かれたとのことです。また、「Two of Us」は、1991年公開の映画『ふたり』の主題歌「草の想い」のセルフカバーであり、後に英語詞が追加されたバージョンも発表されています。「Cape Hotel」は、映画『あの夏、いちばん静かな海。』の劇中曲「Clifside Waltz」のセルフカバーで、久石譲自身が「エリック・サティに捧げたピアノワルツ」と語っています。さらに、「狂気」は、『紅の豚』に「狂気-飛翔-」というタイトルで使用され、サウンドトラックにも収録されています。「Tango X.T.C.」は、映画『はるか、ノスタルジィ』のメインテーマ「追憶のX.T.C」のセルフカバーで、シングルカットもされ、テレビドラマのエンディングテーマにも起用されました。この曲名は、イギリスのロックバンド・XTCに由来するものの、久石譲はタイトルをインスピレーションで付けることが多く、特に深い意味はないことが多いと語っています。なお、バンドネオンはリシャール・ガリアーノが演奏しています。

本作の演奏には、Gavyn Wright London Stringsが参加しており、ストリングスアレンジはNick Ingmanが担当しています。

CDジャーナルは、本作を「オケとピアノを中心にした重厚なサウンドだが、根底にあるのはやはりロマンティックな久石節だ。」と評価しています。

『My Lost City』は、久石譲の音楽的な探求心と、時代や文化への深い洞察が融合した、意欲的な作品と言えるでしょう。

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