N2T (航空機)

N2T：プラスチック製の練習機

第二次世界大戦下のアメリカ海軍において、異色の存在感を放った練習機がありました。それが、ティム社製のN2Tチューターです。本機は、その機体の大部分をプラスチックで構成した、当時としては非常に珍しい設計が特徴でした。

金属資源不足と革新的な素材

ティム社は、ロサンゼルスに拠点を置く、ロッキードやバルティーといった大手航空機メーカーの下請けとして知られる小規模企業でした。しかし、同社は独自にプラスチック合板の研究開発に力を入れており、その成果として「エアロモールド」と名付けられた特殊なプラスチック合板を開発しました。この素材を用いて、同社は1940年にS-160-Kという試作機を製作。陸軍と海軍での試験飛行を経て、海軍から高い評価を受けました。

戦争が拡大するにつれて、アメリカ海軍は金属資源の不足という深刻な問題に直面しました。そのような状況下で、金属の使用量を大幅に削減できるN2Tは、海軍にとって魅力的な選択肢となりました。そこで、海軍はS-160-Kのエンジンをより強力なコンチネンタルR-670-4に換装したN2T-1を採用、量産へと踏み切ります。

プラスチック製機体の特徴

N2Tは、主翼、胴体といった機体の大部分をエアロモールド製のプラスチック合板で製造。尾翼部分の桁のみが木製の構成でした。胴体はセミモノコック構造を採用していました。金属製の部品は、エンジンや脚など一部に限定され、全体の1割程度にとどまりました。この特殊なプラスチックは、一般的な合板に比べて耐水性、耐油性、耐火性に優れるという利点がありました。

性能面では、初歩練習機としては標準的なものでした。しかし、新素材を用いた製造工程は複雑で、熟練の技術を要しました。加えて、ティム社自体の生産能力が限られていたことも、生産数の少なさに繋がりました。結果として、N2Tの生産機数は262機に留まり、1943年から部隊配備され終戦まで使用されました。

N2Tのスペック

まとめ

N2Tは、金属資源の不足という大戦下の制約の中で生まれた、革新的な試みと言えるでしょう。プラスチック製の機体という斬新な設計は、その後の航空機設計に影響を与えたとは言えませんが、当時の技術革新を象徴する機体として、その歴史的意義は軽視できません。生産数こそ少なかったものの、N2Tはアメリカ海軍のパイロット養成に貢献し、戦争終結まで活躍したのです。

もう一度検索