N95マスク
N95マスクとは
N95マスク（Particulate Respirator Type N95）は、アメリカ合衆国労働安全衛生研究所（NIOSH）のN95規格をクリアし、認可された微粒子用マスクです。このマスクは、空気中の微粒子を効果的に遮断し、着用者を様々な危険から保護します。
歴史
N95マスクの歴史は、いくつかの前身となるマスクに遡ります。1910年から1911年にかけて発生した「満州ペスト」の際に伍連徳が使用したマスクや、防毒マスクがその例として挙げられます。
1970年代には、米国鉱山局とNIOSHが使い捨て呼吸具の規格を開発しました。その後、1972年に3M社によって最初の使い捨てN95呼吸具（粉塵用）が承認されました。さらに、1992年には台湾系アメリカ人の材料科学者である蔡秉燚とそのチームが、コロナ静電帯電方式を用いたN95マスクのフィルターを発明しました。この新しい技術は、微粒子（ほこり、細菌、ウイルスなど）を電気的に引きつけ、マスクを通過する前に捕集します。このフィルターは、粒子の少なくとも95％を捕集できるとされ、1995年に米国特許を取得しました。この技術は、N95マスクの製造にすぐに採用されました。
米国では、結核などの呼吸器感染症の職業感染予防のためにN95マスクが導入され、日本でも結核感染対策としてN95マスクが使用されるようになりました。
N95規格
NIOSHが定めるN95規格は、9種類の基準の中で最も低いもので、「N」は耐油性がないことを示し、「95」は試験粒子を95%以上捕集できることを意味します。この規格では、フィルターで最も捕集しづらい、つまり通過しやすいサイズの0.3µmの粒子を試験粒子として使用し、その捕集率が95%以上でなければなりません。試験粒子には、塩化ナトリウム（NaCl）やフタル酸ジオクチル（DOP）が用いられます。
日本の厚生労働省国家検定規格では、DS2区分のマスクがN95マスクと同等の性能を持つとされています。
N95マスクの性能はフィルター自体の性能を示すものであり、装着後のマスクと顔との密着性は保証されていません。市販されているN95マスクの多くは、密着性を高めるためにカップ型になっており、ズレを防止するために2本のゴム紐で固定するタイプも存在します。ただし、使用にあたっては正しい装着が必須であり、サイズ確認のためのフィットテストを最低でも年1回実施し、マスク着用ごとに息漏れがないかを確認するシールチェックを行う必要があります。
再使用方法の問題と対策
2020年の新型コロナウイルス感染症の流行時には、日本でN95マスクが不足し、医療従事者が1枚のマスクを複数回再使用せざるを得ない状況が発生しました。しかし、実験の結果、アルコール消毒によりウイルスの通過率が新品時の1%から35%にまで劣化することが判明しました。これは、新品のサージカルマスクの4%という通過率と比較しても著しい劣化です。アルコール消毒は、繊維が帯びた電気を失わせるため、N95マスクには禁忌とされています。
N95マスクのフィルターを発明した蔡秉燚は、米国で同様の問題に取り組み、7枚のN95マスクを毎日交換し、順番に再使用する方法が有効であることを発見しました。この方法であれば、ウイルスは一週間以内に不活化するため、安全に再使用が可能であると結論付けました。
用途
N95マスクは、主に粒子状物質の吸入防止に使用されます。元々は、製造現場や建設現場など粉塵の多い場所で使用されていましたが、結核やSARSなどの感染症対策にも有効であることが示され、医療業界でも広く利用されるようになりました。また、PM2.5や有害物質を含むヘイズにも有効です。
N95マスクは、手術用のサージカルマスクとは区別され、レスピレータ（respirator）、呼吸用保護具、防じんマスクなどとも呼ばれます。
NIOSHによる規格区分
NIOSHによる規格には、以下の9種類が存在します。これらは、耐油性の有無と微粒子の捕集性能によって分類されます。
- - 耐油性
- R：耐油性あり
- P：防油性あり
- - 性能
- 99：0.1～0.3µmの微粒子を99%以上除去
- 100：0.1～0.3µmの微粒子を99.97%以上除去
これらの組み合わせにより、N95、R99、P100などの規格が定められています。
脚注
外部リンク
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