NG (ゲーム情報誌)

『NG』

『NG』（エヌジー）は、かつて株式会社ナムコ（現在の株式会社バンダイナムコエンターテインメント）が発行していた企業広報誌です。その正式名称は『namco COMMUNITY MAGAZINE NG』といい、「ナムコガイド」の略称として親しまれていました。1983年に創刊され、主にナムコの直営ゲームセンターなどで無償配布される、現代でいうフリーマガジンの形式をとっていました。

媒体の歴史と配布形態

『NG』の発行時期は、ナムコが特に精力的にアーケードゲームや家庭用ゲームを展開し、「ナムコ黄金期」とも称される1980年代中盤と重なります。創刊当初は季刊誌として、年に4回（1月、4月、7月、10月の25日）発行されていましたが、実際の店舗への到着日は多少前後することもありました。予算の制約からか初期の発行部数は少なめで、一部の店舗では、店員と親しい常連客にしか手に入らないという希少な状況も生まれました。当時、メーカー自身が発行する定期的なアーケードゲーム情報誌は他に類を見ない珍しい存在であり、ナムコという強力なブランドイメージと相まって、『NG』は単なる情報源にとどまらず、所有していることが一種のステータスとなる「ナムコグッズ」としてもゲーム愛好家の間で非常に価値あるものとされていました。

配布は原則としてナムコの直営店で行われていましたが、ナムコから機器をリースしている独立経営の店舗でも一部配布されるケースがありました。また、直接店舗に行けない読者向けに、郵送での定期購読や、切手を送付することでバックナンバーや最新号を取り寄せるサービスも提供されていました。実質的には無料の媒体でしたが、郵送取り寄せ時には定価が設定されており、その実費が必要でした。実際に有料で販売されていた時期や店舗も存在します。月刊化された初期の頃は、ファミリーコンピュータのブームと時期が重なったこともあり、ナムコットブランドの家庭用ゲームの販促物として、玩具店などで配布される例も見られました。

1986年11月からは、判型がA5からB5へと大型化され、月刊誌に移行しました。この月刊化に伴い、一旦150円の定価が設定されましたが、一部の直営店では引き続き無料で配布されていました。その後、1988年12月発行の号からは再び完全無料に戻っています。1989年6月からは隔月刊となり、最終号となる第52号は1993年4月に発行され、その歴史に一旦幕を下ろしました。

多彩な誌面構成

『NG』の誌面は、新作ゲームの紹介や特定のテーマに焦点を当てた特集記事（時にはアウトドアなどゲーム以外の話題も取り上げられました）を中心に、多岐にわたるコーナーで構成されていました。

トピックス: 表紙の裏面に掲載され、ナムコに関する様々な最新情報が手短に紹介されました。
付録: ペーパークラフトやカセットテープ用のインデックスカードなど、ゲーム関連の小物や実用的なアイテムが付いてくることがありました。
インターフェース（後にハードウェアサポートと改称）: ゲーム開発の担当者が読者からの技術的な質問や疑問に直接答える人気コーナーでした。これは遠藤雅伸氏が企画したと言われています。月刊化後も続き、後にゲーム開発の基礎を解説する「ナムコ・教養講座 OS」も連載されました。
全国ロケーション（店舗）紹介 → ロケーション・ネットワーク: 全国のナムコ直営店を取材し、店舗の様子や雰囲気を伝えるレポート記事でした。
図画工作教室: 「Mr.ドットマン」氏が、ゲームのドット絵の描き方を解説するコーナーです。後に、ゲームキャラクターのフルスクラッチモデル製作なども紹介されました。
ロボット: マイクロマウス競技用ロボットやイベントで使用されたロボットなどが紹介されました。
マンガ: 『午後の国』（季刊時代）、『迷廊館のチャナ』（月刊化後のNo.30以降）、『まけないクン』などの連載マンガに加え、『超絶倫人ベラボーマン』や『爆突機銃艇』といったゲームのコミカライズなども掲載されました。
読者投稿ページ: 読者からのイラスト、作文、アイデアなどが掲載されるコーナーで、季刊時代は「NG TALK」、月刊化以降は「元気新聞」と呼ばれました。月刊化以降は、企画色の強い投稿コーナー（例：「京極院静鳳先生の書道塾」、「ことわざ予備校」）も増加しました。
ナムコグッズ通信販売カタログ: 季刊時代の巻末に、ナムコのオリジナルグッズを購入できる通販情報が掲載されていました。
「遊び」をクリエイトするコラム VOICE OF PLAY: 月刊化に伴い始まった、著名人へのインタビュー記事です。
NGファンアンケート: 月刊化以降、巻末に掲載されたアンケートで、ここでの読者の意見が誌面づくりに反映されることもありました。
WHAT'S NAMCO?: 不定期に掲載されたコラムで、広報誌でありながら、ナムコ自身の存在意義やあり方を問いかける内容が、読者に刺激を与え、議論を呼ぶこともありました。
チャレンジマン'88: 読者が一年間の目標を立てて達成を目指す参加型企画でした。
ゲームインプレッションコーナー: 月刊化後の後期に始まり、特定のナムコゲームを読者が評価し、その意見を読者代表（NGクラブメンバー）がまとめ、開発担当者がコメントを返すという、読者と開発者の間でゲームを語り合う企画でした。

読者との交流と文化的な側面

『NG』は単なる一方的な情報提供誌ではなく、読者と会社（開発者）との活発なコミュニケーションの場としても機能していました。前述の開発者質疑応答コーナーや読者投稿ページはその代表例です。特に読者投稿ページからは、初期に投稿を行っていた田尻智氏など、後に著名なゲーム開発者やライター、雑誌編集者として活躍する人物を輩出しています。投稿が掲載された読者にはオリジナルグッズが贈られるなど、ファンサービスにも力が入れられていました。また、ゲーム関連の記事だけでなく、ナムコ社員であった冨士宏氏の幻想的なマンガや、大場惑氏によるショートショートSFなど、質の高い読み物も掲載されており、ゲームファン以外の読者も惹きつける多様な魅力を持っていました。

ナムコが1986年から運営していたテレホンサービスも、『NG』本誌の読者投稿コーナー担当者が兼任するなど、誌面とリアルな交流が連携していました。

さらに、『NG』の熱心なファンによる公認ファンクラブ「NGクラブ」も存在しました。誌面で募集が行われ、全国に支部を展開し、『NG』本誌とは別に独自の会報を発行するなど積極的に活動しました。クラブメンバーが取材で誌面に登場することもあり、本部には後に著名な漫画家となる広江礼威氏も在籍していました。

休刊、そして現在へ

1993年に『NG』が休刊した後、その意思を受け継ぐ形で季刊誌『NOURS』（ノワーズ）が創刊され、こちらは52号まで刊行されました。その後、バンダイとの合併を経て『B-NOURS』（ビィ・ノワーズ）と改称し、さらに12号が発行されました。『NOURS』および『B-NOURS』は、ゲーム情報に加えて映画、音楽、ショップ情報など、より幅広いエンターテインメントを「知的エンターテインメント」という切り口で紹介する構成となり、若年層を中心に好評を得ました。読者とナムコの交流を促すページや、店舗紹介といった『NG』時代から続く人気企画も継承されていました。しかし、『B-NOURS』は2009年4月発行の第12号をもって休刊し、『季刊NG』創刊から数えて26年にわたる広報誌の歴史に幕が下ろされました。

時を経て、2010年に展開されたナムコ往年の作品のリメイクシリーズ「ナムコジェネレーションズ」では、『NG』の後期に使用されていたロゴがデザインの一部として引用されました。また、2021年にはAmazonのオンデマンド・プリントサービスを通じて、『NG』の前期・後期ロゴがあしらわれたTシャツが販売されるなど、その名前とデザインは現在もファンの中で生き続けています。

関連情報

1994年には、ソフトバンクから『NG』の総集編と特別編集号をまとめた書籍『ザ・ナムコ・グラフィティ〈1〉完全保存版!NG総集編&特別編集号』が出版されています（ISBN 4-89052-585-8）。

『NG』は、単に企業の広報誌という枠を超え、ナムコというゲームメーカーの文化そのものを発信し、当時のゲームシーンにおいてファンとの密なコミュニケーションを築いた、非常にユニークで貴重な媒体であったと言えるでしょう。

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