ON THE CITY SHORE

角松敏生の3枚目のオリジナルアルバム『ON THE CITY SHORE』は、1983年5月21日にリリースされました。このアルバムは、彼の音楽キャリアにおいて重要な転換期を示す作品と言えるでしょう。

まず、制作体制の変化が挙げられます。本作から角松敏生は、セルフプロデュース、セルフアレンジによる制作スタイルへと移行しました。それ以前の作品とは異なり、全ての楽曲で作詞、作曲、編曲を自身で手掛けるようになったのです。このことは、彼の音楽的自主性と表現力の向上を明確に示しています。

また、所属事務所とレーベルの変更も大きな出来事です。彼はトライアングル・プロダクションからマーマレードへ移籍し、レーベルもRCAからAIRへと変更しました。これらの変化は、彼の音楽活動における新たなステージへの進出を象徴する出来事と言えるでしょう。

アルバム収録曲についても注目に値します。先行シングルとしてリリースされた「TAKE YOU TO THE SKY HIGH」は、アルバムバージョンで収録されています。ただし、シングルバージョンで間奏に数原晋のトランペットソロが使用されていたのに対し、アルバムバージョンでは友成好宏のシンセソロに変更されています。また、シングルのカップリング曲「LONELY GOOFEY」はアルバムには収録されていません。

さらに、アルバムの特徴として、いくつかの楽曲がクロスフェードで編集されている点が挙げられます。2、3、4曲目、7、8曲目、9、10曲目は、前曲の終わり部分が次の曲の冒頭に聞こえるように繋げられています。これは、楽曲間の流れをスムーズにし、アルバム全体の統一感を高める効果を生んでいます。

『ON THE CITY SHORE』に収録されている楽曲は、後のベストアルバムでも再収録されています。例えば「TAKE YOU TO THE SKY HIGH」と「TAKE ME FAR AWAY」はベストアルバム『1981-1987』に、それぞれリテイクバージョンとエディットによるロングバージョンで収録されています。また、「SUMMER EMOTIONS」と「BEACH'S WIDOW」はリメイクベストアルバム『REBIRTH 1 〜re-make best〜』に収録されていますが、「BEACH'S WIDOW」は「A Widow on the Shore」に改題され、歌詞も一部変更されています。これは、角松敏生自身が歌詞の文法に問題があったと判断したためです。 さらに、「RYOKO!!」はアルバムでは短いインターリュード的な楽曲でしたが、2017年のリメイク・ベストアルバム『SEA IS A LADY 2017』では、リズムプログラミング、コーラス、歌が追加され、大幅にアレンジされています。

『ON THE CITY SHORE』は、角松敏生の音楽性の転換点ともなっています。このアルバムまでは、夏や海をテーマにした明るく開放的なリゾート感覚のサウンドが中心でしたが、このアルバム以降は、夜の都会の喧騒や大人の男女の複雑な感情をテーマにしたサウンドへとシフトしていきました。この変化は、彼の音楽的成熟を示すものであり、後の作品群へと繋がる重要なステップとなったと言えるでしょう。アルバム全体を通して、角松敏生の音楽的才能と探究心、そして、アーティストとしての成長を強く感じさせる、聴き応えのある作品です。

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