OTHレーダー

OTHレーダー（超水平線レーダー）とは

OTHレーダー（Over The Horizon radar）は、通常のマイクロ波レーダーでは観測が難しい水平線以遠の遠距離を観測するために開発されたレーダーシステムです。超水平線レーダーとも呼ばれます。マイクロ波は直進性が高いため、地球の丸みにより、遠くの物体や山などの障害物に遮られた物体を捉えることができません。しかし、OTHレーダーは、短波帯の電波を利用することで、この問題を解決しています。

OTHレーダーの仕組み

OTHレーダーは、短波帯の電波が電離層で反射する性質を利用します。電波を斜め上方に発射すると、電離層で反射し、再び地上に戻ります。この時、電波が戻ってくる地点は、送信機から見て水平線よりも遠くの地点となります。この原理を利用して、遠距離の航空機やミサイルなどを観測することができます。ただし、精度は低く、目標の存在を検知する程度にとどまります。また、近距離の観測には適していません。

OTHレーダーには、送信機と受信機が近い場所にある後方散乱方式（OTH-B）と、送信機と受信機が数千キロメートルも離れた場所にある前方散乱方式（OTH-F）があります。

各国のOTHレーダーシステム

アメリカ

アメリカ空軍は、AN/FPS-118 OTH-Bを運用しています。これは、電離層反射波を利用するタイプで、送信機と受信機が別々の場所に設置されています。メイン州とオレゴン州に設置され、それぞれ大西洋と太平洋を監視しています。アメリカ海軍は、AN/TPS-71 ROTHRを運用しており、密輸や麻薬取引の阻止を目的として、テキサス州とバージニア州に設置されています。

ソビエト連邦/ロシア

ソ連は、1950年代初頭からOTHレーダーの研究を行い、試作システムである「Veyer」を開発しました。その後、「ドゥーガ2」や「ドゥーガ3」といった実用的なシステムを開発し、ソ連の東半分や北極海を監視していました。ソ連崩壊後も、ロシアはOTHレーダーの開発を継続しており、29B6コンテナレーダーなどを運用しています。

オーストラリア

オーストラリア空軍は、ジンダリー作戦級レーダーネットワーク（JORN）を運用しています。1970年代から開発を開始し、1990年代に運用を開始しました。オーストラリア北部と西部を監視しており、探知距離は3,000キロメートルに及びます。

中国

中国は、1960年代からOTHレーダーの開発に着手し、1980年代から運用を開始しました。初期のシステムは、電離層反射波を利用するものでしたが、近年は地表波を利用するシステムも開発しています。浙江省や内モンゴル自治区にレーダーサイトを設置しており、周辺地域を監視しています。

日本

日本では、情報通信研究機構が沖縄県与那国島でOTHレーダーの研究を行ってきました。2024年には、防衛省がこの研究施設を受け継ぎ、2029年度以降の装備化を目指すことを発表しました。

日本におけるOTHレーダーの歴史

かつて、在日米軍は、日本国内に前方散乱方式（OTH-F）のOTHレーダー「440L」を設置していました。このシステムは、所沢や千歳、沖縄に設置され、ヨーロッパ方面を監視していました。しかし、運用に際して近隣地域へのTV受信障害が発生したことや、設置に関する問題が表面化したため、1975年に運用が停止され、施設は全て撤去されました。

OTHレーダーによる電波障害

OTHレーダーは、強力なパルス状の電波を発信するため、放送局や無線局などに電波障害を引き起こすことがあります。特に、短波帯の電波を使用するため、アマチュア無線や短波放送に混信が発生し、「ウッドペッカーノイズ」と呼ばれる独特のノイズを発生させることで知られています。冷戦時代には、このノイズがソ連からのジャミングと混同されることもありました。

まとめ

OTHレーダーは、水平線以遠の遠距離を観測できる画期的なレーダーシステムです。その技術は、各国の防衛や監視活動に重要な役割を果たしています。しかし、電波障害などの問題も抱えているため、運用には注意が必要です。

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