PCエンジンスーパーグラフィックス

PCエンジンスーパーグラフィックス：高性能を追求した、短命に終わった挑戦

1989年 11月30日、NECホームエレクトロニクスはPCエンジンの上位互換機としてPCエンジンスーパーグラフィックスを発売しました。メーカー希望小売価格は39,800円。年末商戦を前に発表されたこの機種は、PCエンジンを凌駕するグラフィック性能を大きな特徴としていました。スプライトとバックグラウンドの表示能力はPCエンジンの2倍に向上し、メモリ容量も増強。フランスでは『SuperGrafx』として販売されました。

圧倒的なパワー、しかし扱いは難しい

スーパーグラフィックスの心臓部は、PCエンジンで使用されていたHuC6270グラフィックチップを2個搭載した点にあります。この2倍の処理能力により、PCエンジンを大きく上回るグラフィック表現が可能になりました。しかし、2つのビデオチップからの出力信号を1つに合成する複雑なシステムは、プログラミングの難易度を大幅に引き上げました。開発者にとって、このマシンは扱いづらい存在だったと言えるでしょう。

メモリ容量も増強され、メインRAM 32KB、VRAM 128KBを搭載。同時発色数は512色中最大481色を実現しました。スプライト表示能力も向上し、最大128個のスプライトを同時に表示可能。ただし、横320ドットモードでは表示できるスプライト数は制限されました。バックグラウンドも2画面表示に対応するなど、PCエンジンを凌駕する性能を誇っていました。

独特のデザインと周辺機器

筐体デザインは、V型6気筒エンジンを思わせる独特の形状で、PCエンジンと比較して3倍以上のサイズを誇っていました。ジョイパッドや周辺機器は、基本的にPCエンジンと互換性がありましたが、CD-ROMドライブとの接続には専用の接続アダプタが必要でした。特にSUPER CD-ROM²との接続は電源供給に工夫が必要だったため、後から互換性を高めるサードパーティ製のハードウェアも登場しました。

発表時には、本体に装着する大型アナログジョイスティック「パワーコンソール」(予定価格59,800円)も発表されました。マクロ機能やゲームと連動するインジケーターなどを備えた豪華なデバイスでしたが、価格や駆動系の強度などの問題により、発売は中止。後に試作品がオークションに出品されたという逸話も残っています。

ソフトウェアの状況と市場の反応

スーパーグラフィックス向けソフトの開発は、予想以上に困難を極めました。ハードウェアの特性と複雑なプログラミングは、開発者の負担を増大させました。そのため、専用ソフトはハドソンとNECアベニューから合計6本のみと、市場の期待に応えるほどの数は発売されませんでした。いくつかのタイトルは、PCエンジンとの両対応ソフトとして発売されましたが、スーパーグラフィックスならではの機能を活かした作品は限られていました。当初は複数のメーカーが開発を検討していましたが、本体の普及台数や性能に関する情報不足などを理由に、開発を断念するメーカーが続出しました。

『月刊PCエンジン』誌が実施したアンケートでは、スーパーグラフィックス向けソフトの開発予定があると回答したメーカーはわずか2社のみという結果となり、市場の冷ややかな反応を物語っています。

発売されなかったタイトルにも注目です。アーケードで人気を博した『ストライダー飛竜』は、スーパーグラフィックス版の開発が検討されましたが、仕様変更を経てSUPER CD-ROM²、さらにアーケードCD-ROM²へとプラットフォームが変更され、スーパーグラフィックス版は結局発売されませんでした。また、『フォゴットンワールド』なども、スーパーグラフィックス版が計画されながらもCD-ROM²へと変更されています。