PRIMEPOWER

富士通がかつて提供していたエンタープライズ向けUnixサーバのブランド、それがPRIMEPOWER（プライムパワー）です。このシリーズは、前世代にあたるGP7000Fの後継として位置づけられ、2000年5月から2007年にかけて市場に投入されました。企業の基幹システムや大規模なITインフラを支えることを目的として開発された、高い信頼性と性能を兼ね備えたサーバ製品群でした。

PRIMEPOWERシリーズの最も特徴的な点の一つは、その核となるCPUにありました。富士通は、当時の高性能RISCプロセッサの標準的なアーキテクチャであったSPARC V9に準拠したCPUを、自社で設計・開発しました。さらに特筆すべきは、このCPUの製造から、それを搭載したコンピュータシステムとしての完成、そして世界市場への出荷までの一連のプロセスが、全て日本国内で行われていたことです。これは、PRIMEPOWERが販売されていた期間において、CPUを国内で開発・製造し、量産出荷まで行った唯一のコンピュータ製品であるという、技術的・産業史的に重要な側面を持っていました。

オペレーティングシステムには、エンタープライズ用途で広く実績のあるSolarisが採用されました。SPARCプロセッサとSolarisの組み合わせは、当時のハイエンドUnixサーバにおけるデファクトスタンダードの一つであり、PRIMEPOWERはこの堅牢な基盤の上に構築されていました。このハードウェアとOSの組み合わせは、各種のベンチマークテストでしばしば最上位にランクインするなど、その高い処理能力と安定性を実証していました。

シリーズの展開は、2000年5月に発表された初期モデル、PRIMEPOWER800、PRIMEPOWER1000、PRIMEPOWER2000から始まりました。これらのモデルは、搭載可能なCPU数やメモリ容量、I/O性能などによって構成が異なり、顧客の多様なニーズに対応できるよう設計されていました。システムのスケーラビリティも高く、事業規模の拡大やデータ量の増加に合わせて柔軟に拡張することが可能でした。

PRIMEPOWERシリーズが国内外の市場、特に欧州市場で一定のシェアを獲得できた背景には、単なるハードウェア性能の高さだけでなく、システム運用に関わるソフトウェアやミドルウェアの充実がありました。システムの導入から日々の運用管理、監視、そして障害発生時の対応までをサポートするため、管理ツールや監視ユーティリティが整備されていました。さらに、ビジネス継続性の観点から不可欠な機能として、高可用性（HA）クラスタリングソフトウェアにも力が入れられていました。これらの包括的なソリューションによって、PRIMEPOWERは顧客に対して高い信頼性と運用効率を提供し、ミッションクリティカルなシステムを任せられる製品として評価されました。

また、特定の高性能計算分野への対応も積極的に行われました。2002年には、HPC（高性能計算）に特化したバージョンであるPRIMEPOWER HPC2500が登場しました。このHPC向けモデルは、日本の宇宙航空研究開発機構（JAXA）が運用するNSシステムに採用されるなど、科学技術計算やシミュレーションといった分野での活用事例も生み出しました。

PRIMEPOWERシリーズは、その販売期間において、富士通のUnixサーバ戦略の中核を担いました。自社開発CPUによる性能と独自性、Solarisによる安定したOS基盤、そして充実した運用管理機能と高可用性によって、国内外のエンタープライズITを支えました。2007年に販売を終了し、その役割は後継シリーズであるSPARC Enterpriseへと引き継がれました。PRIMEPOWERは、日本の技術力が結集された、信頼性の高いエンタープライズサーバシリーズとして、その歴史に名を刻んでいます。

関連する富士通のコンピュータシリーズには、以下のものが挙げられます。

GRANPOWER
DS/90 7000シリーズ

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